Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
従来より、点付き有限型双曲リーマン面のモジュライ空間上のWeil-Petersson計量(以後、WP計量と略す)、およびTakhtajan-Zograf計量(以後、TZ計量と略す)を調べ、それを通してモジュライ空間およびそのコンパクト化空間の幾何構造を解明しようとしてきた。2002年に初めてメリーランド大学のWolpert教授を訪ね共同研究を開始し、今年度はその研究をさらに押し進めることができた。まず、モジュライ空間の境界におけるWP計量の漸近展開のMasurによる公式を改良し、その第2項に実はTZ計量が現れることを発見した。さらにその第3項以後の項は、リーマン面の退化の位相タイプによって大きく異なることを見いだした。これについては、現在もWolpertと検討中である。一方で、以前からL.Weng, W.-K.Toと共同で調べているTZ計量に関するモジュライ空間の$L^{2}-$コホモロジーについては、リーマン面の種数が1の場合はWP計量に関する$L^{2}-$コホモロジーに一致することが示せた。種数2以上の場合は、TZ計量のコホモロジーはWP計量の$L^{2}-$コホモロジーを含み真により大きいことが証明できた。これはモジュライ空間の境界成分の一部でTZ計量が退化してしまう現象から起こることである。この退化のオーダーを完全に決定できれば残りのTZ計量の$L^{2}-$コホモロジーは求まるが、そのために最近得た退化Eisenstein級数のオーダー評価を応用していこうと考えている。Wolpertが私との議論から刺激を受け、「リーマン面の各marked pointにおいて、TZ形式の4/3倍がWitten classに等しいこと」を証明したことは著しい進展である。この結果とM.Mirzakhaniの仕事を組み合わせることにより、「すべてのモジュライ空間のTZ計量に関する体積を求める」長年の課題がついに実現した。
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