Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
タウ蛋白は、アルツハイマー病患者の脳でみられる2つの主要な病変のうちの1つである神経原線維変化(NFT)を構成している。我々は、これまでの研究において、ヒトタウ蛋白をマウスの中枢神経系に過剰発現させたマウスを作成し、その性質を検討してきた。当マウスは、主に脊髄にタウ陽性の封入体を形成し、軸策輸送を障害することで神経変性を来たし、その結果として運動障害を引き起こす。また、免疫組織学的、生化学的検討からは、過剰発現されたタウ蛋白はアルツハイマー病の場合と同様に過剰なリン酸化を受けている。これらの所見からは、我々が作成したマウスが、アルツハイマー病を中心とするタウ蛋白関連疾患(タウオパシー)を再現したモデル動物として有用であることを示している。リチウムは、主として感情障害の治療薬として広く臨床使用されている薬剤であるが、主要なタウリン酸化酵素であるGSK-3βを抑制する効果を有することから、タウの病的過剰リン酸化を抑制することでタウオパシーへの治療効果を持つことが期待されている。我々は、当実験において、タウ過剰発現マウスにリチウムを慢性投与し、その効果を検討した。その結果、リチウムによりマウス脊髄のタウ陽性封入体の数は一時的に増加し、次いで急激に減少することが明らかになった。封入体が増加する時期にタウの不溶化が増強していないこと、マウスの運動障害が増悪しないことと合わせて考えると、リチウム慢性投与は、GSK-3βの抑制を介してタウのリン酸化を抑制することで神経細胞に対するタウの毒性を減弱させる可能性、また細胞内に蓄積したタウの代謝を促進する可能性が示唆された。現時点で得られている結果のみでタウオパシーに対するリチウムの効果を判断することは難しいが、今後、若干の検討を加えて学会及び論文に発表する予定である。