Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
他の呼吸上皮と違い正常時には無菌状態にある中耳腔は独特な上皮免疫機構が存在することが予想されるが、その分子生物学的機構は明らかにされていない。中耳炎の代表的な起炎菌であり、上皮における炎症性転写因子NF-κB活性化機構が感染の本体であることが明かとなったインフルエンザ菌に焦点を絞り、炎症刺激のトリガーより始まり中耳炎で滲出液貯留するまでの一連の過程を分子生物学的に説明できることを目的として一連の研究を行ってきた。平成14年度はインフルエンザ菌の菌毒と非常に類似した構造を持つSalmonella typhimurium由来のLPSを経鼓膜的にラット鼓室内投与し、中耳粘膜上皮細胞における変化を検討した。その結果、中耳粘膜には粘膜肥厚、炎症細胞の集積、粘液貯留を認め、安定した中耳炎モデルとして使用可能であることを確認した。平成15年度はこれらの機序を分子生物学的に説明可能とするため、これまで不可能であったマウスの中耳粘膜のair-liquid interfaceによる初代培養法を確立した。これに炎症性サイトカインを投与することで繊毛上皮細胞数の減少、繊毛上皮細胞の粘液分泌細胞へのトランスフォーメーション等の所見を確認した。従来の細胞培養法による中耳粘膜の検討では、上皮細胞が培養液中に存在するため、それ自体が中耳炎の状態と同等であるため、中耳炎に伴い発現する遺伝子などを正確に把握できない状態であったが、この成功によりそれが可能となった。また、マウスにおける成功は遺伝子欠損及び過剰発現種の豊富さより中耳炎の病態の分子生物学的解明に貢献できるものと思われる。