Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
HIV-1の複製を強力に抑制する多剤併用療法(HAART)の導入により、HIV-1感染症/AIDSに対する治療効果が著しく向上し、それに伴いHIV脳症発症率の低下も認められるようになった。しかしながら、生涯続けなければならないと考えられている現行のHAARTによって、今後、長期的にみて、このHIV脳症発症率低下が持続されるかは全く不明である。一方、世界に目を向ければ、十分なHAARTを享受できない発展途上国を中心に、HIV感染者が爆発的に増加している現状がある。このような状況から、現在、新たなHIV-1複製阻害薬の開発と共に、HIV脳症の発症機序を明確にし、その予防薬・治療薬の開発を行うことは必要不可欠であると考えられる。昨年度は、HIV-1が関与するヒト由来神経細胞に与える神経障害のin vitroモデルの構築を行い、その特徴づけを行った。本年度はHIV-1を含む培養上清(ウイルス液)を添加することで誘導されるこの神経細胞死と関連するタンパク質を探索するために、神経細胞のプロテオーム解析を行った。その結果、ウイルス液添加によりmanganese superoxide dismutase(Mn-SOD)の発現が著しく亢進することが明らかとなった。このMn-SODの発現は、ウイルス液による神経細胞死と密接な関係があることが示唆された。Mn-SODの誘導には、酸化ストレスが関与することが既に報告されている。また、HIV脳症発症の原因因子にスーパーオキシドアニオンをはじめとした活性酸素の関与が考えられており、実際、HIV脳症患者由来の脳組織中に、活性酸素が存在した証拠を示す多くの報告がある。従って、本in vitroにおけるウイルス液による神経細胞死においても活性酸素による酸化ストレスの関与が考えられる。抗酸化剤として知られるN-acetylcysteineの処理により細胞死の顕著な抑制効果、及びMn-SOD発現誘導の抑制効果が示されなかった。このことは、本in vitro系が単純に抗酸化剤では抑制されない特異な系である可能性があり興味深い。
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