Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
神経系が高次脳機能を発現するためには、シナプスが形成された後、さらに経験・学習に適応してシナプスを再構成し、独自の神経回路網を発達させることが必要である。このようなシナプス可塑性を司る神経樹状突起部にはmRNAやポリリボソームが存在することから、細胞体で合成されたある種のmRNAは選択的に樹状突起の棘突起に輸送され、局所的に蛋白が合成されると考えられている。しかしながらmRNAの極性輸送のメカニズムについては未知の点が多い。そこでわれわれは、大脳皮質ニューロンのシナプス可塑生の分子制御機構を探る端緒として、神経細胞体から樹状突起へのRNA極性輸送を担う新規分子のクローニングを行い、その輸送機構を解明することにした。まず、大脳新皮質に高発現がみられる新規RNA結合蛋白としてTLSをクローニングした。このRNA結合蛋白の神経細胞内動態をマウス海馬および大脳皮質の神経初代培養細胞系を用いて解析したところ、細胞体を出たのち、微小管とアクチン系の両細胞骨格系により樹状突起へ輸送されていることが明らかとなった。次にわれわれは、この蛋白が興奮性後シナプス部を形成している棘突起に特異的に集積しており、さらにこの集積はmGluR5の刺激依存的に起こることを明らかにした。実際にTLSが棘突起内で機能しているアクチン系モーター蛋白と相互作用していることや、TLSの標的RNAと会合した状態で棘突起に存在していたことから、TLSがmGluR5シグナル依存的に棘突起へRNAを輸送していることが示唆された。現在までに、TLSの標的RNAとして28S RNAやアクチン重合を安定化させる蛋白をコードしているRNAなどを同定している。これと平行して、TLSのノックアウトマウスよりTLS機能欠損型の神経細胞を調製し、この細胞と正常神経細胞の比較検討を行った。TLS機能欠損型の神経細胞では棘突起の形態異常が認められ、棘突起の密度が顕著に減少していた。またTLS機能欠損型の神経細胞ではmGluR5シグナル依存的なRNAの輸送量が減少していた。以上の結果より、TLSはmGluR5の活性に伴う棘突起の構築変化を安定化させるために必要なRNAの輸送に関与するRNA結合蛋白と考えられる。現在、TLS標的RNAの生細胞内動態の解析と棘突起内輸送に関わる分子の同定を進めている。