Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
水域における溶存酸素の動態は、富栄養化・水質汚濁に伴った生物活性に影響を受ける。この溶存酸素動態にリンクするもっとも基本的なパラメータは、「光合成(P)」と「呼吸(R)」であり、その比(「P/R比」)は生物活性の総和の指標と考えることができる。本研究では、モデル集水域として琵琶湖流域を設定し、その集水域でおこる物質収支の総和としての琵琶湖に着目してモニタリング手法の開発を行なった。琵琶湖北湖では、近年深水層における年最低溶存酸素濃度の低下傾向が懸念されているが、溶存酸素動態の詳細は分かっていない。そこで、本研究では溶存酸素安定同位体比を用いて琵琶湖の溶存酸素生成-消失機構を検討した。調査は琵琶湖北湖近江舞子沖の定点(水深約70m)で月一回行なった。溶存酸素同位体比は、大気との交換により供給される酸素(大気の酸素同位体比に近い)、光合成により生産される酸素(水の酸素同位体比を反映する)、呼吸により消費される酸素(呼吸による同位体効果により、残った溶存酸素同位体比は上昇する)により決定される。琵琶湖における年間の酸素同位体比の変動をみてみると、成層期に表水層では光合成により酸素同位体比は低くなったが、深水層での酸素同位体比は時系列に従って上昇した。2004年度の湖底直上における酸素同位体比最大値は2005年1月に現れたが、2005年度では2005年10月におこっており、年変動を示した。溶存酸素飽和度と酸素同位体比を両軸に取ったグラフによると、P/R比を視覚的に表現でき、かつ呼吸による同位体分別係数を用いたモデルによってP/R比のアイソクラインを示すことが出来た。これにより、P/R比の深度別季節変動が明らかになった。本研究を通じて、酸素同位体比を用いたモニタリングにより、溶存酸素濃度のみでは得られない酸素の由来や消費過程の推定を行なえることを示した。