Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
「欽定憲法」に関する歴史認識の形成と定着に関する歴史的研究と題して、帝国憲法下の憲法観を解明することが本研究の目的である。この研究によって、従来の、憲法学者の学説を紹介することに終始してきた日本憲法思想史は、新しい研究段階に進歩する。歴史認識としての欽定憲法観は(1)明治天皇の主体性強調、(2)その裏返しとして伊藤博文らの従属性強調ないしは役割の矮小化、(3)天皇と臣民が平和的関係の裡に憲法制定を行ったこと(4)憲法制定・議会開設は明治維新完成=第二維新であること、等の意想を構成要素とする。この四条件の形成と定着を政府と民間の両面から考察する。かかる歴史認識は一般に政府と民間の合作によって作られ、それによって初めて定着するものと考えるからである。平成17年度には、論文の作成に取り組み、「欽定憲法」に関する歴史認識の形成について結論を得た。すなわち、明治14年から明治22年にいたる伊藤博文と井上毅の政治指導の分析を通じて、明治20年の大同団結運動・三大事件建白運動によって第一次伊藤内閣が崩壊したことが、欽定憲法史観形成の歴史的要因であることを解明したのである。また、内閣制度の成立についても、内閣職権、内閣官制にかんする通説を批判し、これを是正した。本原稿は400字詰原稿用紙に換算して1100枚程度の分量に達した。しかも個別論文の集積ではない。そのため、本研究の成果は雑誌論文としてではなく、学術書として出版することが適当と考え、研究成果公開促進費を申請した。只、当初の計画では、欽定憲法史観の定着についても議論する予定であったが、上記研究に手間取ったため、資料収集と断片的な草稿を書いただけに終わった。今後の課題としたい。