Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
本研究では高温菌を用いた嫌気性水素発酵について検討するために、生ごみ基質として、水素回収に及ぼすTS濃度の影響を把握した。実験に用いた生ごみの組成は、湿重ベースで野菜(キャベツ、ジャガイモ、ニンジン、大根、白菜)10%、果物(リンゴ、オレンジ皮、バナナ皮)20%、残飯類(ご飯、パン、麺類)20%、肉類5%、魚介類5%、卵類2.5%である。これらの生ごみをブレンダーにより破砕し、所定濃度に希釈して、基質とした。温度条件は高温発酵として、55℃に維持した。HRTおよびSRT 3日の連続運転を、投入基質のTS濃度5%および10%で行った結果、TS濃度5%では1.6g/(L・d)程度まで水素生成速度が増加したのに対して、TS濃度10%では全く水素は生成されなかった。水素回収率は、投入CODcr基準で8%に相当し、これまでで最も高い水素回収率が得られた。次に、数理モデルを構築して、水素の生成に及ぼす操作因子の影響を検討した。既存の嫌気性消化モデルにおける酸生成過程を発展させる形で、低分子有機物からの非光合成細菌による水素発酵で重要と考えられる乳酸や酪酸の蓄積を考慮しながら、水素発酵を再現しうる数理モデルの構築を試みた。TS濃度の影響を検討した連続実験結果に適用することで、本モデルの妥当性が示された。そして、TS濃度を5〜10%に変化させた場合の水素生成率の検討を、作成したモデルにより行った。その結果、水素生成率を向上させるには、TS濃度の制御が重要であり、また特に系が破綻しないように注意する必要があることが示された。以上のように本研究では、人工生ごみを基質とし、高温酸発酵菌を用いて低分子有機物を生成させ、そこからの非光合成細菌による水素生成反応に及ぼす操作因子の一つとしてTS濃度の影響を明らかにし、水素回収技術開発に資する基礎的な知見が得られた。