Research Abstract |
多系統萎縮症(multiple system atrophy,以下MSA)は,運動障害を主徴とする孤発性神経変性疾患である.乏突起膠細胞の嗜銀性封入体(glial cytoplasmic inclusions,以下GCI)を特徴とし,これらは脳幹小脳系や錐体外路系に広く分布している.本年度は,GCIが病期の進行に伴いどの様に変化するかを検討した.MSAで障害されやすい部位である橋底部,中小脳脚,小脳半球を分析対象とし,GCIを構成する異なる蛋白(ユビキチン,alpha-synuclein,過リン酸化alpha-synuclein)に対する抗体を用いてGCIを定量化した.その結果,以下の事が判明した. 1.病期の進行にともない,GCIの数は有意に減少する.そして,この傾向はユビキチン,alpha-synuclein,過リン酸化alpha-synucleinのいずれにも同様であった. 2.GCIの標識率にも有意な差が認められ,alpha-synudeln,過リン酸化alpha-synuclein,ユビキチンの順であった.これらの結果より以下の事が考察される. 1.上記1の結果は,我々が以前発表した,GCIにおける14-3-3蛋白(T.Komori, K.Ishizawa, et al : Acta Neuropathol:106:66-70,2003)の結果に合致する.両者の結果をまとめると,GCIを構成する様々な蛋白につき,GCIは病期の進行によって減少するということが明らかとなった. 2.過リン酸化alpha-synuclein,およびユビキチンは一部のGCIにのみ含まれている事が明らかとなった.この結果は前述の14-3-3蛋白の結果と同様で,これらは,alpha-synudeinが最多数のGCIを標識しうる,GCIの主要な構成蛋白であることを再度確証する結果となった.また,一般的に,過リン酸化alpha-synucleinは異常な凝集を来しやすいと言われており,過リン酸化alpha-synuclein陽性GCIはより長期にわたり組織に留まり,組織障害を惹起しうると推定されたが,今回の検討では,他蛋白の動向と同様で,病期の進行にともない減少していた.過リン酸化alpha-synuclelnのin vivoでの真の病的意義が次の課題となった.
|