Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
従来から腫瘍に対する放射線の治療効果と血管新生との相関が指摘されている。近年、血管新生を促進する重要な因子の一つとして血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)が見出された。その後、血管新生の抑制因子としてthrombospondin-1(TSP-1)が発見された。培養細胞系においてトランジェントに変異型p53遺伝子を導入した場合、VEGFの発現誘導が認められ、p53遺伝子の遺伝子治療において血管新生の抑制が観察された。本研究はこれらのことを踏まえた形でp53遺伝子型のみが異なる培養ヒトがん細胞を用いて、放射線照射後の血管内皮増殖因子VEGFを含む血管新生制御因子の誘導動態について検討した。細胞株にはp53遺伝子欠損ヒト肺がん由来細胞(H1299)にneo遺伝子のみを含むコントロールベクターを導入したH1299/neo細胞株、野生型p53遺伝子発現ベクターを導入したH1299/wtp53細胞株および変異型p53遺伝子(Trp248)発現ベクターを導入した H1299/mp53細胞株を用いた。野生型p53遺伝子を有するヒト神経膠芽腫細胞A-172にneo遺伝子のみを含むコントロールベクターを導入したA-172/neo細胞株および変異型p53遺伝子(Trp248)発現ベクターを導入したA-172/mp53細胞株を用いた。X線照射後の血管新生制御因子の転写誘導を高感度な分析法として知られるリアルタイムPCR法により、蓄積誘導をウエスタンブロット法により解析した。変異型p53遺伝子を導入した細胞と野生型p53遺伝子を導入した細胞との間では放射線照射後の血管新生促進因子VEGFおよび血管新生抑制因子TSP-1の転写誘導および蓄積誘導について経時的および線量依存的な変化に有意な差が認められ、放射線照射後の血管新生動態においてp53依存的な制御が存在することが示唆された。