Budget Amount *help |
¥2,800,000 (Direct Cost: ¥2,800,000)
Fiscal Year 2004: ¥2,800,000 (Direct Cost: ¥2,800,000)
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Research Abstract |
一般に記憶は,記銘・保持・想起の3つの事象から成ると理解されるが,じつは決して単純な現象ではない.動物は2種類の記憶方略を容易に取り得ることが知られている.ひとつは展望的記憶方略であり,記憶課題を遂行する際,ある刺激を見た後に,「これから何を選択すべきであるかを覚えている」というものである.もうひとつは回顧的記憶方略であり,記憶課題を遂行する際,ある刺激を見た後に,「さきほど見たものは何であったかを思い出す」というものである.動物はどちらの記憶方略も柔軟に選択可能で,どちらの方略をとるかは,各場面でどちらの方略がより容易に使用できるかに依存する(Roitblat,1980など).われわれは先行研究(Eifuku, et al.2004)で,「顔」のアイデンティティ認知課題遂行中のサル前部側頭皮質各領野のニューロン活動を解析し,前部下側頭皮質のニューロン集団により「顔」のアイデンティティが表現されていることを報告した.さらに前部下側頭皮質ニューロンの一部は,正解テスト「顔」刺激に対するニューロン応答潜時が「顔」の向きに依存して系統的に変化した.すなわち,サルの行動反応時間とニューロン応答潜時に有意な正の相関を有するニューロンが存在した.以上の結果は,想起がテスト刺激の呈示後に行われる回顧的記憶方略に合致する知見と考えられる. 本研究では,「顔」のアイデンティティ認知課題における記憶方略のニューロン相関を調べるため,前部下側頭皮質「顔」ニューロン(「顔」に選択的なニューロン活動を示すニューロン)の課題遅延期間中のニューロン活動(遅延活動)および正解テスト刺激に対するニューロン応答の時間経過を比較・解析した. 記録された「顔」ニューロンのうち約30%が有意な遅延活動を示し,これらのニューロンの遅延活動は最初の遅延期間で最大で,それに続く遅延期間では漸減した.大部分は最初の遅延期間でのみ有意な遅延活動を示した(I型ニューロン).これら遅延活動は「顔」のアイデンティティに対する緩い刺激選択性を有していた.また,遅延活動の刺激選択性と正解テスト刺激に対するニューロン応答の刺激選択性には有意な正の相関があった.残りの約70%は有意な遅延活動を示さなかった(II型ニューロン).II型ニューロンの一部はサルの行動反応時間と正解テスト「顔」刺激に対するニューロン応答潜時に有意な正の相関を有した. I型ニューロンの課題中のニューロン活動は展望的記憶方略と合致し,一方II型ニューロンの課題中のニューロン活動は回顧的記憶方略と合致すること考えられることから,前部下側頭皮質「顔」ニューロンは,展望的記憶方略と回顧的記憶方略の両方を反映することが示唆された.
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