Research Abstract |
肺では,発がん物質が異なると異なる種類のがんができ,またその量によっても形態が異なってくる.このことは,発がん因子特有の発がん経路や遺伝子発現があることを示唆している.我々は,タバコとアスベストによる肺癌のp53変異パターンの違いから,アスベストは細胞回転を促進することによりがんを発生させる,すなわちいわば炎症性の発がんであることを示した.本研究では,アスベストと関連した肺癌の網羅的発現解析をおこなった. これまでに,肺内アスベスト沈着(+)3例,(-)2例の解析を終了した.いずれも非喫煙者であるので,アスベストによる肺癌の特徴を映し出していると考えられる. アスベスト沈着(+)症例で(-)の症例に比べ発現が亢進している遺伝子カテゴリー:4倍以上の発現が見られる遺伝子は129あり,それをオントロジーの観点からカテゴリーに分けた.トップ5カテゴリーは,mitotic cell cycle 10, intracellular 47, cytoplasm 32, cell cycle 12, chromosome 6となった(2つ以上のカテゴリーに入るものがあるので,合計は129を超える).Mitotic cell cycleカテゴリーでは,survivin, calgizzarin, p57/Kip2などがあった.アスベスト沈着(+)症例で発現が低下している遺伝子カテゴリー:0.25倍以下に低下している遺伝子は169あり,それをカテゴリーに分け,トップ5を示すと,extracellular 7, organogenesis 6, enzyme inhibitor activity 3, extracellular space 4, organismal physiological process 8となった.Extracellularのカテゴリーに入った遺伝子としては,surfactant蛋白(SP-A1, SP-B, SP-C), TIMP3などがあった. 本研究は,アスベストが原因で発生した癌と喫煙が原因で発生した癌とでは,細胞の性質がどのように異なっているのかを,遺伝子発現の観点から研究しようとするものである.現在までに得られているデータはアスベストの「細胞増殖を促進することにより発がんに寄与する」という性質に合致するものである.今後も,検索を続ける.
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