Research Project
Grant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areas
超短パルスレーザーによって励起された金属微粒子分散系が示す大きな3次の非線形感受率の起源は、レーザーで励起された後の金属微粒子系の緩和過程の詳細に関係していると考えられている。この現象を説明する従来の理論では、孤立した金属微粒子のような有限系において、電子温度が定義出来ることを前提として、現象論的な方程式を用いた説明に終始している。しかし現実の系が平衡状態にあることは自明ではなく、電子温度が定義出来るかどうかは問題である。前年度までの研究では、この問題を解決するために、電子間相互作用を含む金属微粒子のモデルハミルトニアンを構築し、その厳密解を求め、系の状態の時間発展を調べた。その結果、原子数6個および8個の金属クラスターにおいて、電子相関が十分大きい場合は、電子状態の占有数は十分時間が経つとある一定の値に収束し、Fermi-Dirac分布関数で近似できることを示した。孤立した有限系が熱平衡に達するかどうかは、その系のカオス的振る舞いの有無と深く関わっている。古典系においてはこれに関する多くの議論があるが、量子系に関して議論した論文は少ない。量子論においては、基礎になるシュレディンガー方程式が線形であり、本来の意味でのカオスが存在しないことが、この問題の解決を難しくしている。ここでもし時間に依存するHartree-Fock(TDHF)近似を行なえば、方程式は非線形になり、カオスが出現して熱平衡が実現する可能性が生まれる。しかし、時間に依存するHF近似の妥当性は十分に調べられてはおらず、またカオスが出現しても、近似による人工的なものである可能性もある。そこで今年度はTDHF近似を用いた計算を行い、厳密解と比較した。その結果、電子相関が大きいかまたは小さいかに関わらず、少なくとも今回計算した範囲内では、厳密解とは非常に異なる結果が得られた。また、特に電子相関が大きい場合でも、十分に熱平衡に至る結果は得られなかった。