Research Project
Grant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areas
金属ガラスでは主構成元素の原子半径が12%以上異なっていることが知られている。小さな原子は骨格となる大きな原子のランダム配列の間隙を埋めることによって、充填率と結合強度を上げる繋ぎの役割を果たすと考えられる。従って、高いガラス形成能の起源を探るうえで軽元素の役割を理解することは重要である。X線吸収微細構造(XAFS)測定で軽元素の吸収端を測定すれば軽元素周辺の局所構造が観測できるが、軽元素の吸収端は大気でも短距離で吸収される軟X線領域になるため、金属ガラスについては軽元素のXAFS測定がこれまで行われていなかった。そこで、He雰囲気でPd78Cu6Si16金属ガラスの軽元素SiのK吸収端XAFS測定を広島大HiSORのBL3で行った。計算と比較した結果、Si周辺の局所構造について第一近似としてはPd9Si2結晶と類似していることが分かった。Si周辺のPd配位数は8から10程度で、Si-Pd距離はPd9Si2結晶の場合より0.1Åほど小さい。このことからガラス状態では静的にランダムに揺らいだ配置をとるPdによってSiが圧迫されて押しつぶされていると見られる。アルゴンに酸素を含む雰囲でアニールされたPd78Cu6Si16では表面3μm程度の深さまでSiは酸化されており、Si周辺は4配位の酸素で囲まれている。軟X線領域にあるPdのL3吸収端XAFS測定によると、Pdは酸化されておらずPd周辺の局所構造はもともとPd同士の結合が主であるため、Siが酸化されても大きな変化は見られなかった。さらに、Cu周辺のK吸収端XAFS測定を高エネ研PFのBL9Aで行った結果、Cuも酸化の影響は受けず、組成から予想される通りCuの周辺構造はPdが主に配位しているモデルで合う。このことから、Siだけが選択的に酸化され金属ガラス表面にシリカガラスが析出していると考えられる。