Research Project
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
歴史に対する評価は往々にして現代社会のさまざまな思惑から、学術的客観性を逸脱して多方面への問題へと波及する可能性をはらんでいる。そうした傾向を排除して、この地域に共生をもたらす歴史認識の形成は如何にして可能となるのか。本研究課題はこうした課題への一定の解答を得るための具体的且つ詳細な資料・データをまとめ上げようとするものであった。とりわけ、高句麗史およ渤海史に関しては政治・言語・文化・教育といった現代的事象と深く繋がっており、この方面の分析・整理は不可欠である。本年度は、一方ではまず問題となる地域において学術研究あるいは教育を担う機関がどのような認識を持っているか、さらにはどのような具体的方途を講じているかを、日本国内の各方面の専門家の協力をえつつ検証すべく延辺大学を訪れ、直接的に指揮する立場にある総長に面談し、一定の歴史認識の枠組みを構築しえた成果として、これを国家の政策(国益)に直結させようという動きを確認することができた。それはこれまで問題になってきた‘領土論'とはまた異質の、一定の経済的利得追究的な‘史跡および周辺自然の世界遺産化'を目指そうとするものであった。そうした動きの状況を歴史の現場から把握すべく、高句麗・渤海の史跡周辺を精査し、そうした地域の大きな変容相を確実に解明することができた。朝鮮民族文化方面の研究者たち(熊谷明泰・関西大学教授、佐野正人・東北大学助教授)の他、特に世界遺産問題では日本でのトップクラスの専門家である毛利和雄・NHM解説委員らの協力は大きかった。さらに、これまで日本では20カ所ほどしか確認されていなかった北朝鮮内の渤海遺跡所在地を、文献精査によって60カ所以上の確認を行った。