Research Abstract |
本年度は,昨年度に実施した動物実験および過去の動物実験データをもとに,数理モデルを使って人の健康リスク算出を行った。まず,昨年度の実験で取得したラット肝臓での発がんプロモーター実験のデータを用い,標的臓器中(この場合は肝臓中)のダイオキシン濃度とがん発生促進作用の比較を通じて,ラット肝臓における3種類のダイオキシン同族体(2,3,7,8-TCDD,1,2,3,7,8-PeCDD,2,3,4,7,8-PeCDF)の相対毒性強度REP(relative potency)を算出した。ダイオキシン3種の相対毒性を決定する一方で,絶対リスクを計算するための方法も検討した。ダイオキシン投与によりラット肝臓で発がんを起こさせたNational Toxicology Program(NTP)の公開データを参考とし,ベンチマークドーズ法を使って,1%過剰ながんを引き起こすダイオキシンの肝臓中濃度(ベンチマーク濃度,BMC)を計算した。このBMCを参考に,人の肝臓でこのBMCに達するような摂取量を,PBPKモデルを使って逆算した。その結果,人で肝臓に1%の過剰発がんを引き起こす摂取量は,TCDDで3.3-12.9,PeCDDで9.3-36.8,PeCDFで71.1-274.8(単位:ng/kgBW-day)であった。この摂取量をもとに3種類のダイオキシンの,人における相対毒性(REP)を計算すると,TCDDを1としたときPeCDDは0.35,PeCDFは0.05であった。一方,ラットでも同様の検討を行った結果,REPはTCDD:1,PeCDD:0.34,PeCDF:0.05であった。これはWHOが既に1998年にダイオキシン同族体の毒性換算係数(TEF)として公表している値(TCDD:1,PeCDD:1,PeCDF:0.5)とは異なっていた。また,WHO-TEFは齧歯類と人で同じ値を採用しているが,本研究において肝臓での濃度とがんプロモーション活性REP(relative potency)を介した正確な種間外挿方法を検討した。実験データと数理モデルを参考に毒性相対強度を再計算した結果,人もラットもREPはほぼ同じであり,結果的にはWHO-TEFとほぼ類似の内容であった。また,ベンチマークドーズを用いて各ダイオキシン同族体のユニット・リスクを計算し,このユニット・リスクと現状の食品由来の曝露量(TCDD:0.213,PeCDD:0.364,PeCDF:0.647pg/kgBW-day)から現状のリスクを算出すると,TCDD単独では1.7-6.5人/1000万人,3つのダイオキシンでは2.9-11人/1000万人であった。このように,動物実験データと数理モデルを使ってダイオキシンのリスク計算を行ったのは最初の報告であり,この成果はToxicology and Applied Pharmacologyに掲載予定である。
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