Project/Area Number |
16652025
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Exploratory Research
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Field |
Literatures/Literary theories in other countries and areas
|
Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
川東 雅樹 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (00134081)
|
Project Period (FY) |
2004 – 2006
|
Project Status |
Completed (Fiscal Year 2006)
|
Budget Amount *help |
¥2,300,000 (Direct Cost: ¥2,300,000)
Fiscal Year 2006: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
Fiscal Year 2005: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2004: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
|
Keywords | 嗅覚表象 / 文学 / 世紀転換期 / 視覚支配 / リルケ / 嗅覚 / 世紀末文学 / 匂いの言語性 / 文化としての感覚 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、文学テキスト、とくにリルケの『マルテの手記』に現れた嗅覚表現の分析を継続するとともに、これに先立つボードレールの『悪の華』、ユイスマンスの『さかしま』、ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』等の同じく独特の嗅覚表象を特徴とする作品との比較検討もあわせて行った。 嗅覚表象が認識手段として言語テクストのレベルで伝統的に低位に位置づけられてきたのは、その「把握しがたさ」と「価値判断の介入」というふたつの欠点が認められてきたからだが、この視点は嗅覚現象を描写の客体、対象としてのみとらえるものである。したがって19世紀リアリズム文学において嗅覚が定められ、叙述で用いられるにしても単純な比喩表現にとどまることが多いのは理由のあることといえる。この意味では、その多彩さと豊麗さにおいて嗅覚表現の典型と受けとめられてきた『さかしま』や『ドリアン・グレイ』の表象も表現上の工夫のひとつという枠に収められるものである。リルケにおける嗅覚表象の特質は、そのように匂いを描写の対象とする伝統美学からの訣別にある。嗅覚表象が記号化と分類という言語の根源的な働きにおいて挫折したところから出発しているのがリルケであり、その背景には世紀転換期における表現をめぐるパラダイムの大きな変化が挙げられる。それは認識主体としての自我とそれを取り巻く外界との関係の変化であり、同時に内部と外部、過去と現在、可視の領域と不可視の世界という従来の二元論が無効となったという実感ととらえられる。リルケの嗅覚表象はその場合このふたつの領域の境界を越境するイメージと関係づけられとともに、表現の限界を超える存在を指し示すという意味においてはボードレールを受け継ぐものといえる。
|