Research Project
Grant-in-Aid for Exploratory Research
今年度は最終年度に当たることから、様々な方向から動的立体保護について検討した。一つは前年度から続けているロタキサン軸上のエステル官能基の反応性に及ぼす輪の存在効果である。すなわち、ロタキサン構造をとることで輪成分が軸上を自由に並進運動する時、軸上に置かれたエステル官能基の反応性がどのように変化するか検討したものである。塩基性条件下の加エタノール分解反応について検討した結果、エタノール中では、輪成分が移動できないロタキサンの方が、移動できるロタキサンよりも速く分解した。従って、輪成分の運動が制限されるとエステル官能基に対する保護効果は及ばないが、自由な輪の運動が保証されるとエステルヘのアルコキシドの求核攻撃が妨げられるためと説明できる。そのほか関連するいくつかの実験を検討した。最終的に、軸上における輪成分の並進運動性の違いが軸上官能基の反応性の違いに密接に関連していることが実際に示され、輪成分の並進運動性が高い場合には輪成分自身が立体障害となってエステル官能基の反応性を低下させることが示された。この結果は、これまで多くの研究者が予想していたことであるが、本研究によって実際に検証された。これがまさに「動的立体保護」と言うべき立体保護現象であり、非共有結合的に結ぴついた移動可能な成分の運動性が引き起こす現象であり、嵩高い置換基で速度論的に保護する「静的立体保護」と区別される、と結論した。また、アンモニウム塩・クラウンエーテル型ロタキサンにおけるアンモニウムの酸性度が極端に低く見積もられ、塩基での中和ができない点について検討した結果、3級アンモニウム塩構造にすることで容易に中和できることがわかり、立体保護効果がやはりアンモニウム構造を保護していることが示された。
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