Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
本課題における研究目標は、1.簡便かつ迅速な大気中酢酸の安定炭素同位体比(δ^<13>C値)計測法を確立し、その方法を用いて2.大気中酢酸および各発生源酢酸のδ^<13>C値分布を明らかにすることである。1.に関してはマイクロ固層抽出法(SPME)を前処理とした、ガスクロマトグラフ・同位体比質量分析法(GC/IRMS)による同位体比計測法を、標準試薬を用いて検討した。結果、〜100μMの酢酸水溶液試料4mLを用いて、測定時間約2時間、測定精度・確度±0.5‰で酢酸のδ^<13>C値を計測する方法を確立した。2.に関しては、自動車排ガスや、植物を燃焼させたガスを、ダイアフラムポンプを用いて、捕集液(pH10に調製した蒸留水)中を通過させながら吸引し、酢酸水溶液として捕集した試料を用いて、本法によるδ^<13>C値の計測を行った。結果、発生源や燃焼材料が異なると酢酸のδ^<13>C値がことなるという結果が予察的に得られた。このことから、大気中酢酸および各発生源からの酢酸のδ^<13>C値計測が、大気酢酸の循環解析に有効である可能性が示唆された。次に、大気中酢酸に注目して、その同位体比を計測することを試みた。まず、自動車排ガスや植物燃焼ガスと同様のシステムで大気中の酢酸を回収したが、同位体計測に必要な試料量を得るために1週間程度大気を吸引する必要があることがわかった。また、降水中の酢酸を計測する場合、降水として〜100cc必要なことがわかった。さらにどちらの場合も水溶液試料を濃縮する必要があった。濃縮の際に、酢酸の回収率が100%を越えることがあり、資料に共存している酢酸以外の有機物から酢酸が生成している可能性が示唆された。新たに生成した酢酸がもともと存在していた酢酸のδ^<13>C値を変えてしまうので、濃縮過程において酢酸を精製する有機物をあらかじめ除去する必要がある。本研究では、様々な固層抽出用のカートリッジを通過させることで、濃縮後に酢酸の増加を防ぐことが出来るかどうかを検討したが、効果が得られるカートリッジはなかった。今後、本法を用いて酢酸のδ^<13>C値を計測するためには、前処理の濃縮段階での回収率増加を防ぐ方法・条件を確立することが必要である。回収率が増加しなかった降水試料、大気試料についてδ^<13>C値の計測を行うことが出来た。結果、採取場所や採取時期が異なるとδ^<13>C値が異なることがわかった。先の各発生源の予察的な結果と合わせて、大気酢酸の循環解析に対するδ^<13>C値計測の有効性が示唆された。