Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
メチル水銀(MeHg)の毒性発現機構についてはいくつかの説が提唱され、酸化的ストレスの関与も示唆されているが、脳神経系に特異性の高い毒性がもたらされる機構については充分に解明されていない。本年度は水銀蓄積期間とミトコンドリア傷害発現との関係について把握するため、MeHg投与(10mg MeHgC1/Kg/days,5日間)後、7日目、14日目の大脳、小脳ミトコンドリアを用い、総水銀量、O_2^-産生量、電子伝達系複合体の酵素活性及び抗酸化系物質を測定した。その結果、1.総水銀量は両組織において曝露終了後7日目から14日目にかけて上昇傾向にあった。2.O_2^-産生量は大脳、小脳いずれの組織においても7日目にはMeHg曝露群で有意に低下、あるいは低下傾向にあった。しかしながら、14日目には小脳においてコハク酸基質を用いた場合に有意な増加が認められた。3.複合体II、III及びIVの酵素活性は小脳において対照群と比較して曝露終了後7日目には顕著に低下した。複合体II酵素活性は14日目でも低活性のままであった。一方、大脳においてはいずれの複合体の酵素活性もMeHg曝露の影響は認められなかった。4.MeHg処理によりGSH濃度は小脳においてのみ、GPX活性は大脳、小脳ともに7日目、14日目で有意に低下した。総SOD活性は大脳において7日目には活性の増大が認められたものの、14日目には対照群と同じレベルの活性を示した。小脳においては7日目、14日目ともにMeHg曝露の影響は認められなかった。これらの結果から、大脳と小脳ではMeHgの毒性発現に至る過程で活性酸素産生制御因子の動態変化に相違があることが示唆され、これまでの結果を支持するように、MeHgによる選択的毒性発現にミトコンドリア微小環境全体の活性酸素産生と消去のバランスが総合的に寄与している可能性が示唆された。