Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
まず、清水良典・編『現代女性作家読本5 松浦理英子』(2006・6、鼎書房)に「「松浦さんレズビアンなんですか?」-『優しい去勢のために』と同性愛-」を書いた。松浦は、レズビアン等のセクシュアル・マイノリティをあつかった小説で知られるが、実は自らのセクシュアリティに関しては、公言することを一切拒んでいる。「松浦さんはレズビアンなんですか?」という質問を峻拒する松浦であるが、レズビアン雑誌のインタビュー記事では、自らのセクシュアリティを明らかにしないことこそがマイノリティに利益をもたらす戦術なのだということを説明している。松浦のエッセイ「優しい去勢のために」の背後にある松浦の基本戦術を、セクシュアリティの権力関係に関する松浦の認識から明らかにした。次に『本の話』(2006・8)に長野まゆみ論「この世とあの世のあわい」を書いた。長野は生物学的に女性でありながら、ゲイ(男性同性愛)をあつかった小説を書く。しかしながら、それはゲイ当事者に寄り添うものと短絡的に考えない方がよく、長野のデビュー作が『少年アリス』であったことを考えるならば、その正体は男性を装う少女なのである。さらに近作『あめふらし』の作中人物はゲイに愛される半死人であるが、その原型は、荻尾望都の『ポーの一族』に見られるような、歳をとらず、子を生さない不死者であり、大人として成熟していくことを受け入れかねている思春期の少女たちの心を代弁したものであることを明らかにした。研究代表者は3年の研究機関の途中に熊本の大学に異動となった。熊本はセクシャル・マイノリティの作家である福島次郎の縁の地であり、当初からの予定に変更を加えつつ福島に関する研究体制の基盤を整えることができた。また、福島と同性愛者としての交流のあった三島由紀夫と熊本の関係、さらに異性愛者でありながらゲイ・テイストに満ち、三島との深い交流のあった澁澤龍彦に関しても研究の基盤が整った。
All 2006 2005
All Journal Article (2 results) Book (3 results)
本の話 12・8
Pages: 18-19
日本近代文学 73
Pages: 355-359