Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
今年度は本研究の最終年度であり、昨年度から継続して、イギリス大学の教養理念について、その理念的枠組みを明らかにするとともに、その教養理念が19世紀のイギリス大学改革においてどのように具体化されたかを、オックスフォード大学を中心にその教育システムの変容(学位試験制度、チュートリアル制度)について明らかにした。その成果を踏まえ、昨年度開催した研究会において、オックスフォード大学出版局マーク・カートイス博士が行った講演「19世紀オックスフォード大学における試験、教養教育、チュートリアル制度」を翻訳し解説を加えてまとめた。また、オックスブリッジに代表される教養教育主体の旧大学との比較対象として、職業的、専門的教育を標榜して設立されたロンドン大学の教育制度改革について考察した。世紀転換期において、学位授与のための試験機関であったロンドン大学は「教育機関」へと変貌する。その過程において、規範的教育機関としての旧大学の「教養理念」が大きな影響を及ぼしたことが明らかになった。一方、日本における教養教育、ことに大綱化以降の一般教育改革に関する文献資料を網羅的に調査、収集した。これらの分析を通じて、現在の日本の大学では教養部を解体し、一般教育を全学共通教育として再編するものと、従来の一般教育と専門教育の二分化ではなく一貫した学士課程教育として再考する二つの傾向があることが明らかになった。19世紀イギリスの大学教育は後者に近いものである。大学における教養教育を考えることは、大学の社会的使命とは何かを問うことであり、職業的準備教育につながる専門教育と教養教育の二者択一ではありえない。今後は、こうした観点から日本の大学教育にも視野を広げつつ、学士課程教育の役割・機能を再考していきたい。