Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
1)「コスモポリタン的」な分布を示すカイアシ類として本研究ではAcanthodiaptomus pacificus(ヤマヒゲナガケンミジンコ)に焦点を置いてきたが、今年度はその対照種としてEodiaptomus japonicus(ヤマトヒゲナガケンミジンコ)を取りあげて遺伝子解析に供した。ヤマヒゲナガケンミジンコが様々なタイプのハビタットに生息したのに対し、ヤマトヒゲナガケンミジンコのほとんどは、低地(標高1000m以下)のため池に出現した。なお両種の共存は、本研究では認められなかった。2)ヤマトヒゲナガケンミジンコにおいても、ヤマヒゲナガケンミジンコと同様にミトコンドリアDNA・COI領域の630bpが遺伝マーカーとして使用可能であることが分った。得られた配列データを元に近隣接合法(K2Pモデル)にて系統樹を作成した結果、ヤマトヒゲナガケンミジンコの遺伝的分化(K2P距離で最大2.6%)は、ヤマヒゲナガケンミジンコ(K2P距離で最大20%)ほど顕著ではなく、DNAバーコーディング的に判断するなら、ヤマトヒゲナガケンミジンコは一種類であるとみなしてよいことがわかった。3)いずれの種類とも、個体群遺伝構造の大半が個体群間での変異で説明できたが、「コスモポリタン的」なヤマヒゲナガケンミジンコでは、その傾向がヤマトヒゲナガケンミジンコより強かった(個体群間変異の寄与率は、ヤマヒゲナガケンミジンコでは90%、ヤマトヒゲナガケンミジンコでは50%)。これはヤマヒゲナガケンミジンコの潜在的な生息環境が多様である(ニコスモポリタン的である)ことと関係があると考えられた。すなわちヤマヒゲナガケンミジンコにとっては、移動分散先の物理化学あるいは生物的環境が現在のそれと顕著に異なる可能性が高いので、移動分散先で迅速に局所適応する能力を獲得したのであろう。そのため移動分散先では先住者の遺伝子型が卓越するため個体郡内での遺伝的変異が小さくなる。この創始者効果が以後長期間にわたり維持されているため、個体群遺伝構造に対する個体群間変異の寄与率が高いのだろうと考えられた。