Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
国内における林冠昆虫相調査を、冷温帯林(夏緑樹林)および暖温帯林(照葉樹林)において、最新の調査法であるフォギング法を導入して行った。また林冠昆虫相のうち優占群の一つである甲虫類について種レベルで、優占分類群、食性、生息環境を分析し、そのうち植食性甲虫については、寄主範囲を分析した。1、国内の冷温帯林および暖温帯林の林冠を調査した結果、一調査地の林冠から200〜300種の甲虫類が採集された。熱帯域での調査結果(400〜1200種)と比べると少ないものの、スナップショット的な極短時間の一調査法によりこれだけの種数が得られる方法は、これまで知られておらず、林冠昆虫相の多様性の高い実態が明らかとなった。得られた資料のなかには、未記載種、寄主や分布の新記録種、希少種が多数含まれ(研究業績参照)、林冠が昆虫類にとっての重要な生息場所となっている状況が明かっとなった。2、林冠での優占分類群は、ゾウムシ科、ハネカクシ科、オサムシ科、コメツキムシ科、ジョウカイボン科で、オサムシ科とジョウカイボン科の割合は、季節により入れ替わり、春の開花期はジョウカイボン科、夏はオサムシ科の割合が増える傾向が見られた。3、食性でみると捕食者の割合が高く、植食者、菌食者がそれに次ぐ。各種の生息環境を既知の生態情報から分析すると、やはり樹上性種の割合が高かった。しかし、地上性と考えられる種も含まれ、樹幹性でどちらともいえない‘ジェネラリスト'的種の割合も高かった。熱帯域の調査では、林冠のスペシャリストの割合が高いという結果が出ているが、国内の林冠では、熱帯域ほど林冠性種と地上性種のすみ分けが明瞭でなく、林冠を一時的に利用する‘ツーリスト'的種の割合が高い傾向が見られた。4、植食性甲虫の寄主特異性は、熱帯域で10%程度と比較的低く推定されているが、同様な傾向が国内の温帯林においても認められた。常緑カシ類の調査で、イチイガシ、ツクバネガシにおいて他の樹種(ツブラジイ、アカガシ、アラジロガシ、スダジイ)に比べ比較的高い割合の寄主特異性が見られたことが興味深い。
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