Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
本年度は重度免疫不全SCIDマウスにBurkitリンパ腫由来のEBV感染H1細胞を腹腔内注射することによって肝臓、脾臓、肺などにリンパ腫様の腫瘍形成を認めた。それらの腫瘍は高度に各臓器を浸潤しており脾臓では完全にマウス由来のリンパ球と入れ代わっていた。また、各腫瘍の病理切片を作成し免疫染色法でEBV特異抗体で抗原検出を行ったところ、EBNA-1はほぼ100%陽性であった。EBV関連リンパ腫の転移能力に寄与しているという論文報告のあるEBNA-3も高頻度に陽性細胞を認めた。この事より腫瘍を形成した細胞は腹腔内に注射したH1細胞由来であると思われた。H1細胞は恒常的にウイルス粒子を産生しており、潜伏感染状態にある細胞に比べて多数のEBV関連蛋白質を発現している。それらの蛋白質がH1細胞の腫瘍形成能力に関与している事が予想された。そこでEBVのウイルス産生を特異的に抑制する抗ウイルス剤のガンシクロビル(GCV)がH1細胞のリンパ腫様の腫瘍形成を抑制するかについて検討した。10mg/kgのGCVをH1腹腔内注射SCIDマウスに投与し、経過を観察した。しかしGCV投与の有無は腫瘍形成期間の長さや腫瘍の大きさには影響を及ぼさなかった。H1細胞は数μMのGCVの存在下でウイルス産生を90%以上抑制され蛋白発現も潜伏感染時に酷似したパターンを取ることが知られている。我々の観察結果は腫瘍形成能力とウイルス産生能力との相関性は薄いことを示唆しているのかも知れない。だが、GCVの濃度や投与時期などの検討の余地は残されている。もう1つの興味深い観察はBurkitリンパ腫の由来のH1細胞から派生した腫瘍の病理切片中にホジキン病特異的とされるリード・スタンバーグ(RS)細胞に似た巨大な二核細胞が観察されたことである。この細胞は形態のみならず、RS細胞の特異抗原であるCD30も陽性であった。現在、さらに詳しくこのRS世様細胞の性状を検討中である。