Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
新潟大学医歯学総合病院口腔外科顎顔面外科診療室では唇顎口蓋裂児に対し1996年からFurlow法によるHotz床併用二段階口蓋形成手術法を施行している。今回、8歳まで定期的に評価し得た唇顎口蓋裂児の鼻咽腔閉鎖機能と正常構音獲得の過程について調査した。【対象および方法】対象は同室にてFurlow法によるHotz床併用二段階口蓋形成手術法を施行し、出生直後より8歳まで定期的に言語管理が可能であった症例30例(以下F群)である。方法は、鼻咽腔閉鎖機能については、閉鼻声と呼気鼻漏出およびKAY社製ナゾメーターIIモデル6400により母音・子音・文章課題の鼻腔共鳴量の評価を行い、総合的に良好、軽度不全、不全の3段階で判定した。構音については音節、単語、文章、会話により判定した。比較対照症例は、同管理下で1996年以前にPerkoのWidmaier変法による軟口蓋形成術を施行した103例(以下W群)とした。両群に軟口蓋形成および硬口蓋閉鎖手術時期に有意差はなかった。判定時期は4歳時、5歳時、硬口蓋閉鎖術前後、7歳時、8歳時とした。統計学的評価はx^2検定を用い、5%未満の危険率により有意差ありとした。【結果と考察】8歳時の鼻咽腔閉鎖機能は良好例がF群96.7%、W群87.4%で、両群に有意差はなく、従来の一段階法と同程度であった。経時的には、F群の4歳時と5歳時、W群の5歳時と術前に有意差があり、2群間では5歳時にのみ有意差がみられた。F群ではW群より約1年早く鼻咽腔閉鎖機能が得られていた。8歳時の正常構音獲得はF群76.7%、W群69.9%であり有意差はなかった。正常構音獲得の過程ではF群に自然治癒、W群に構音訓練終了が多くを占めた。この点について、F群では障害音数が少ない症例が多数を占め、構音障害を有する場合でも会話明瞭度はある程度確保されていたため、訓練を開始せず経過観察する症例が多かったと思われる。構音障害の内訳は両群ともに4、5歳時では鼻咽腔閉鎖機能不全に関連する構音障害の出現頻度が高く、以後は経年的に口蓋化構音、側音化構音の頻度が高くなった。これに対し術前後以後はF群では側音化構音、W群では口蓋化構音の出現が多くなる傾向であった。この差の説明には、Furlow法とWidmaier変法の口蓋形態および鼻咽腔形態の変化からの検討が必要と考える。