Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
人生の終焉を自らの納得の行く形で迎えたいと考える人が増えている。そのひとつの答えとして、自宅で死を迎える在宅ホスピスがある。また、最期までではなくても、限られた時間を住み慣れた自宅で過ごしたいと考え、一時退院される患者も多い。平成18年度退院調整部門が関わった254事例のうち、23事例(9%)が、ターミナル期の患者であった。退院調整部門に依頼があってから退院までに要した日数は3日から65日であった。そのうち、在宅移行や転院に至らず、死亡退院された事例は5事例であった。在宅療養ではなく、ホスピス病院へ転院する事例が多く見られた。ホスピス病棟に行きたい、緩和ケアを希望するなど、方向性が決まっており、相談内容が具体的な事例は、調整に要する日数が短い傾向にあったが、本人への告知がなされていない事例や、本人や家族の意向がまとまっていない事例では、調整に要する日数が長い傾向が見られた。看護師は、本人や家族の意向を確認する、本人や家族の情報を提供する、他職種とのチームカンファレンスを設定する、在宅療養や転院の手配を行うなどの役割を担っていた。退院は、患者やその家族にとってしばしば入院以上に脅威や不安を感じさせるものである。自宅で症状のコントロールができるのか、病状が悪化したときすぐに対応してもらえるのか、再入院の病院は確保できるのかといった問題が不安の原因となる。すなわち、退院支援は、単に入院中に受けた治療や看護を継続するためだけではなく、退院に伴って新たに生じる心理的・社会的な問題を解消するためのものでなくてはならない。病棟の看護師はこのような患者や家族を支援し、本人や家族の意向を調整する役割が重要となる。ターミナル期の患者や家族は「最期は家で迎えたい、迎えさせてあげたい」という気持ちを持ちながら、同時に不安や恐怖、命を預ける・預かる重圧を感じている。また、ターミナル期の患者は予後も短く、また病状が急変する可能性も高いので、退院支援の遅れにより、在宅移行への時期を逸してしまうことも少なくないからである。退院調整部門ではターミナルの患者を受け入れている病院やホスピス病棟、また、在宅での緩和ケアや見取りを支援してくれる主治医など、多くの事例に関わる中で蓄積した情報やネットワークを活用し、円滑な退院調整を可能にしていた。看護師個人や病棟の情報やネットワークには限界があり、ターミナル期の患者や家族への支援には、このような部門の設置や連携が重要な役割を果たすと考えられた。