Outline of Annual Research Achievements |
白血病の治療法の一つに, 白血球抗原適合ドナーからの造血幹細胞移植がある。造血幹細胞移植の前処置として患者に対し, 全身に放射線を照射する方法(全身照射)が広く普及している。全身照射を実施する代表的な方法の一つに, 患者を乗せた寝台が移動しながら放射線を照射する「移動寝台法」がある。現在の高精度化する放射線治療のなかにあって, 移動寝台法は, 致死量に近い量の放射線を全身に照射する最も危険な治療にも関わらず, 人体内の臓器ごとの正確な線量の評価を行えていないのが実情である。本研究は, 原子力分野で広く用いられてきたシミュレーションコードを応用することで, 人体の各臓器に対する線量の評価を含め, 全身照射における高精度治療計画システムを構築することを目的とした。 シミュレーションコードには, あらゆる物質中での放射線の挙動を高精度に模擬できる汎用性の高いPHITS(Particle and Heavy Ion Transport code System)を用いた。本研究は, 移動寝台法の特殊な治療体系の確立, 実測値と計算値の比較による整合性の確認, 人体の各臓器に対する線量評価の3段階により進めた。第1段階として, 移動寝台法の特殊な治療体系の確立に成功した。第2段階として, 実測値と計算値の比較によって, 確立した治療体系が実測値を良好に再現していることを確認した。第3段階として, 人体の各臓器に対する線量解析を試みた。体厚の違いにより, 臓器線量は大きく異なり, 全身に均等な放射線量が照射されていないことが明らかとなった。人体内の詳細な放射線量を明らかにすることは, 予後の長い患者の各臓器の障害発生リスクの推定が可能となるため, 本研究の社会的意義は大きい。
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