古代アンデス文明における都市の社会動態についての研究
Project/Area Number |
16J09126
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 国内 |
Research Field |
Cultural anthropology
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
松本 剛 山形大学, 人文社会科学部, 特別研究員(PD) (80788141)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2017)
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Budget Amount *help |
¥5,200,000 (Direct Cost: ¥4,000,000、Indirect Cost: ¥1,200,000)
Fiscal Year 2017: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2016: ¥1,820,000 (Direct Cost: ¥1,400,000、Indirect Cost: ¥420,000)
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Keywords | アンデス先史学 / 中心と周縁 / 都市遺跡 / 多民族共生 / ハウスホールド考古学 / シカン / ランバイェケ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ペルー北海岸において今から約千年前に栄えた国家シカンの首都・シカン遺跡を対象とし、これまで中央政権の形成・発展・崩壊のプロセスによって定義されてきたシカン成立から終焉まで約500年間の“支配者たちの歴史”を、首都の北部周縁地帯(ワカ・アレーナ)に暮らしていたと考えられている平民たちの日常生活に注目することによって被支配者の視点から見直すことにあった。研究方法としては、①測量調査による基本地形図製作と②地中レーダー探査による埋蔵物の識別と地図化によって遺跡内の空間配置を明らかにし、③地表面の観察と遺物採集の結果を参考にしながら遺跡を小区画に分け、それぞれの特徴を明らかにする。その上で、④各区画内での考古学発掘調査と⑤出土遺物や発掘データの分析を段階的に実施することによって、上に述べた被支配者たちの諸活動とその通時的変遷をとらえることを目標とした。 採用第一年度(平成29年度)には、上記の①~③を実施し、ワカ・アレーナが一定期間、一般居住区として機能していたことが確認できた。また、地中レーダー探査により、興味深い特徴的な反射波が見つかり、今後の発掘区の選定および設定に大いに役立つ情報が得られた。さらに、探査結果を評価するために行った試掘では、老齢女性の遺体が見つかった。埋葬体位も副葬品の位置も、シカンに先行するモチェ文化の埋葬様式に則ったものであった。 採用第一年度の調査終了後、次年度(平成30年度)における目標として、①追加測量による遺跡基本地形図の精緻化、②コア・ボーリングによる地中レーダー探査結果の補完、③埋葬が見つかった発掘区の拡張および簡易発掘、の三つを挙げた。採用第二年度の調査ではこれらの三つの目標をすべて達成できた。発掘によって共伴土器の様式から、上記のモチェ様式の墓が中期シカン期に作られたものであることが明らかになったのはとくに重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採用第一年度同様、第二年度においても調査目標をほぼ達成できたため、本研究はおおむね順調に進展していると結論付けた。詳細は以下のとおりである。 ① 基本地形図の精緻化:追加測量には、自動視準および自動追尾機能を備えた測量機器を使用したが、少ない作業人数で作業を効率化するのに大いに役立った。 ② 土壌サンプル採取実験:オーガーを使用し、土壌サンプルの採取実験を行った。コア・ボーリング導入によって、広範囲で土壌や含有遺物、層位を直接的に観察することで、探査データを補い、土地利用の違いや変化をより詳しく明らかにしたいと考えていたが、この目的に沿った使い方が可能である見通しが得られた。 ③ 簡易発掘調査:簡易発掘では、前年度にモチェの文化様式で埋葬された女性の遺体が見つかった発掘区を拡張した。遺体が出土したのと同じ層位から中期シカン期の土器片が見つかったため、年代測定を行うことなしに、埋葬がシカン期のものであると同定できた。 採用第一年度の調査によって、シカン遺跡の北部周縁地帯・ワカ・アレーナが、中期シカン期に一般居住区として機能していたことを確認できたのは、そこに暮らしていた平民たちの日常生活の実態に迫ろうとする本研究の主要目的が遂行可能であることを明らかに示すこととなった。また、地中レーダー探査の結果を評価するために行った試掘で、シカンに先行するモチェ文化の埋葬様式に則った遺体が見つかったことは、国際シンポジウムにて大きな注目を集めた。さらに、採用第二年度の調査において、この埋葬が中期シカン期のものであることが判明し、シカン人とモチェ人の共存が証明できたことは、上記の遺体の発見と合わせて、本研究における最重要な発見となった。また、地中レーダー探査や土壌サンプラーによるコア・ボーリングなどの周辺技術を試すことができたのも、本研究における重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年10月1日付けで山形大学人文社会科学部准教授に就任するにあたって、特別研究員PDの身分を辞退したため、採用第三年度に予定していた本格的な発掘調査には至らなかったが、当初予定していた研究目標は概ね遂行でき、今後の研究調査のための強固な基盤を築くことができた。 さらにこれを土台に、新たな研究課題を新学術領域研究「古代アメリカの比較文明論」における公募研究として提案し、採択された。今後は、本研究の成果を「ペルー北海岸シカン遺跡の発掘:人類社会と自然環境の相互作用に関する研究」(平成29および30年度)に統合していく。これら二つの研究課題は互いに深く関連しあっており、不可分な関係にある。 通説によれば、シカン社会は11世紀中頃の気候変動がきっかけとなって崩壊し、それに伴って首都のシカン遺跡も放棄され、別の遺跡に遷都したと言われてきた。神殿基壇が燃やされたことを一般民衆による反乱の痕跡と見なし、遺跡放棄や社会の衰退の原因を大旱魃や大洪水などの気候変動とそれに続く社会混乱に求めた。しかし、当研究チームによる近年の調査から得られたデータは、気候変動後も遺跡は放棄されなかった可能性を示唆している。本研究では、人類社会と自然環境の関わりを通時的かつ詳細に研究することによって、従来説を見直すとともに、社会の衰退や復興についての新しい説明モデルを構築・提供することを目標とする。この目標を達成するためには、本研究で得られたシカン遺跡周縁部に暮らす一般民衆に関するデータがきわめて重要となる。 なお、今夏に本研究と並行して行われた発掘調査では、気候変動後も人々が遺跡中心部において儀礼活動(人身供犠や大規模な饗宴)を行っていたことを示唆する物証を得ることが出来た。この新しい発見は、国内外を問わず、大きな反響を呼び、新聞やテレビ、インターネットウェブサイトなどで広く世界各地で報道された。
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Report
(2 results)
Research Products
(3 results)