カザフスタンにおける伝統医療とイスラームの人類学的研究
Project/Area Number |
16K02028
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Research Field |
Area studies
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
藤本 透子 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 准教授 (10582653)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2019: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2018: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2017: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2016: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
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Keywords | 文化人類学 / イスラーム / シャマニズム / 中央アジア / 伝統医療 / カザフスタン / 治療者 / カザフ |
Outline of Annual Research Achievements |
中央ユーラシア草原地帯の社会・宗教動態に関して、歴史学と連携しながら人類学研究を位置づけるため、カザフスタンのR.B.スレイメノフ東洋学研究所の研究者と連絡をとりつつ分析を進めた。カザフ社会におけるイスラームについては、人生儀礼や結婚に関する論考を執筆した。また、関連文献を読込み、エムシと呼ばれる治療者の活動について検討した結果、次のことがわかった。 中央ユーラシアの諸社会は、歴史的にシャマニズム、祖先信仰、マニ教、ゾロアスター教などの宗教的多元性を有していた。14~16世紀頃におけるテュルク系遊牧民の段階的なイスラーム化には、スーフィー教団の導師が大きな役割を果たした。シャマニズムとスーフィズムは観念上異なるが、身体を動かし忘我の状態で不可視の存在に祈る点で儀礼的行為に共通性がある。カザフのバクス(シャマン)がスーフィズムのズィクルと称する儀礼を行うことは、こうした歴史的文脈を踏まえて理解すべきものだろう。 カザフを含む中央アジアのシャマンの主な活動は、病気治療であった。現在では、エムシの活動にシャマニズムの要素が含まれる。エムシはグループを組織して聖者廟などに参詣し、病気の治癒や開運を祈願する。聖者廟はしばしばスーフィー教団の導師の墓に由来し、泉や洞穴も聖者に関連付けられ参詣の対象になっている。エムシの活動は、アニミズム、シャマニズム、スーフィズムの歴史的重層性の上に展開されていると考えられる。 エムシは自分の祖先の系譜を強調することが多い。系譜の重視は一般にテュルク系遊牧民の社会の特徴であり、また歴史的にチンギス・ハンの子孫トレと預言者の子孫であるサイイドが社会的権威を有していたが、明確にシャマンの家系とされるものはない。子孫すべてではなく、特定の子孫に受け継がれた素質が病いや夢の啓示により明らかになるという点に、エムシの系譜および継承に関する観念の特徴がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
健康上の理由で2022年9月から2023年1月まで断続的に病気休暇を取得し、たびたび研究を中断せざるを得なかった。また、基礎疾患があるために、新型コロナウイルス感染症の流行がやや落ち着きをみせた後も、国外渡航して調査を行うことができなかった。メールやソーシャルネットワークサービスなどを活用して現地と連絡を取りつつ研究を進めているが、実際に渡航して調査や研究交流を行う場合に比べ進捗に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のテーマは宗教人類学と医療人類学の領域にまたがっており、これまで主に死生観や世界観などの宗教人類学的観点から研究を進めてきたが、伝統医療と近代的な医療の布置などに関する医療人類学的な分析が不足している。今後は、これまでに収集した関連文献を読み込むとともに、医療人類学的な視点を踏まえてデータを検討していく。 宗教人類学と医療人類学の双方に関わる研究として、シベリアを中心とするシャマニズム研究が参考になる。例えば、1991年に出版されたThe Anthropology of Medicine: From Culture to Method (Second Edition) 所収のM. M. Balzerの論文 “Doctors or Deceivers?: The Siberian Khanty Shaman and Soviet Medicine”は、近代的医療とシャマンの活動について次の点を指摘している。第1に、ソ連時代に近代的な医療制度が導入されシャマニズムが否定されたことにより、シャマンは詐欺師であるという考えが広まった。第2に、それにもかかわらずシャマンの治療儀礼への一定の信頼は継続しており、ハンティの人々は近代的医療とシャマンの治療儀礼の一方を完全に否定するのではなく、病気の種類によっていずれかの治療を選択するという態度をとっている。 こうした指摘は、ソ連時代のカザフ共和国における近代的な医療制度とエムシの活動の関係についてもある程度あてはまると考えられるため、一つの参照枠としてデータの分析を進めていく。また、ソ連解体後の混乱で医療システムが機能不全に陥った一方、社会への奉仕者としてのエムシの位置づけが薄れ、伝統医療が商業化するという状況の変化が生じるなかで、どのように治療が選択されているのかという点についても、歴史的文脈をふまえて検討し英語論文を完成させる。
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Report
(7 results)
Research Products
(38 results)
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[Journal Article] 宗教性の領域で考える2021
Author(s)
川口幸大・別所裕介・藤本透子
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Journal Title
長谷千代子・別所裕介・川口幸大・藤本透子編『宗教性の人類学――近代の果てに、人はなにを願うのか』京都:法蔵館
Volume: -
Pages: 377-389
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