Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
補中益気湯は、免疫増強と免疫制御の両面的な臨床効果を有するが、その作用メカニズムに不明な点が多く、本質的な薬効成分はほとんど明らかとなっていない。補中益気湯に含有されるイヌロオリゴ糖は、本漢方薬と同様に、炎症性シグナルカスケードの抑制性アダプター分子のIRAK-Mなどの発現を増強し、抗がん剤により誘発される小腸粘膜炎症病態を改善する。そのメカニズムの一つとして、植物性生薬に含まれる多糖およびオリゴ糖が腸管免疫系の司令塔であるパイエル板免疫機能を調節し、そのパイエル板から遊出したリンパ球は脾臓などの造血系へと帰巣することから、呼吸器などの局所粘膜免疫系の免疫機能を調節することが推測されている。本申請課題では、補中益気湯の精製イヌロオリゴ糖を用いて、パイエル板や腸管膜リンパ節免疫細胞などでの制御性免疫機能調節作用へのイヌロオリゴ糖群の関与を解析することとした。まず、イヌロオリゴ糖を経口投与した若齢BALB/cマウス(7週齢、雌)のパイエル板免疫細胞の初代培養を行い、ELISAを用いて各種サイトカインの分泌パターンの測定を行った。その結果、イヌロオリゴ糖によりパイエル板のT細胞からIL-2およびIFN-γの産生が増強されることが示唆された。次に、イヌロオリゴ糖を経口投与したマウスパイエル板でDNAマイクロアレイを用いた網羅的発現解析を行うことで、免疫機能調節においてどのような遺伝子群が関与しているか推測することとした。その結果、炎症や免疫細胞の活性化に関与するサイトカインの遺伝子発現量低下、炎症誘導に関与するカスケードを抑制する因子の遺伝子発現量増加が認められた。以上のことから、イヌロオリゴ糖はパイエル板免疫細胞でサイトカインの分泌パターンの変動や遺伝子発現を抗炎症方向へ調節することで、炎症病態を改善させている可能性が考えられた。