Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
近年、血液循環中に石灰化粒子が形成され、血管内皮細胞を傷害し血管壁に侵入していく機序が報告されたが、この粒子の特徴は未解明な点が多い。本研究では、透析患者の血管石灰化粒子の特徴を明らかにすることを目的とし、粒子の抽出を試み、顕微鏡での形体観察,サイズ測定,成分分析を行った。方法は過去の報告を基に、血清をエッペンチューブに入れ高速長時間遠心分離を行い、底面限局部分を回収し試料として用いた。走査型電子顕微鏡では数百nm~数μmの結晶が観察され、EDXマッピング分析では主にNa, Clが検出され、EBSD分析でもNaClの結晶構造と合致した。一方、ToF-SIMSでの成分分析では、リン酸系(PO3)のピークが検出されCaを含んでいた。次に、異なる視点で血管石灰化粒子の抽出を行う方法を試みた。近年、腎不全における培養ヒト大動脈血管平滑筋細胞から分泌されたエクソソーム内には、fetuin-A,Ca,リンが含まれており、この分泌量は細胞外Ca濃度の上昇に影響されて上昇することが報告された。従って、エクソソームをターゲットにすることは血管石灰化粒子の抽出に近づくと考えられた。そのため、次にエクソソームの単離を試み、サイズ測定とX線分析による成分分析を行った。粒子のメジアン径(D50)は99.6 nmであり、過去の報告での血管石灰化粒子のサイズと矛盾しない結果であった。また、成分分析ではCa,リン,鉄,クロール等の成分を認めた。今後は、エクソソーム内のCaやfetuin-Aの蛍光染色を行い、透析患者と健常人における発現量を比較する研究などが有効と考えられる。さらには、エクソソーム内の構成分子(蛋白,脂質など)やマイクロRNAは病気の疾患ごとに特徴が異なることが示されているため、腎不全におけるエクソソームを介した研究の遂行は、血管石灰化粒子の特徴の解明に役立つ可能性が高いと考えられる。