Research Abstract |
本研究では,サルの海馬体で誘発電位を記録する実験系を確立し,反復刺激後の長期増強(LTP)や長期抑圧(LTD)の誘導を試みた.具体的には,まず刺激および記録の各電極の刺入座標を決定するため,麻酔下でサルの脳内に電極位置マーカーを刺入した状態でMRI撮像を行った.電極埋込み時には,各電極を目的とする脳領域(刺激電極は貫通路,記録電極は歯状回)の近傍まで刺入後,電気刺激を加えながら電極位置を微調整し,最大の誘発反応が得られる部位で両電極を固定した.誘発電位記録の初日には,サルが覚醒している状態で刺激強度を系統的に変化させながら誘発電位を記録し,集合興奮性シナプス後電位が最大反応の80%となる電流強度を求めた(以後の実験では一貫してこの刺激強度を用いた).LTP誘導性の評価実験では,まずベースラインとなる誘発電位記録を3日間行い,4日目には,5分間のベースライン記録後,高頻度刺激(50,100または400Hzで10または20パルスを10秒間隔で10回または20回)を与え,その後60〜100分間,誘発電位記録を継続した.LTD誘導性の評価実験は,LTP誘導性評価の場合とほぼ同様であるが,低頻度刺激として,1,2または5Hzで900または1800パルスを与えた. その結果,1,LTP誘導性の評価実験では,400Hzの高頻度刺激により60分の時点で集合興奮性シナプス後電位スロープが約20%増強する(有意なLTPが誘導された)が,50Hzおよび100Hzの高頻度刺激では有意な増強は見られない;2,LTD誘導性の評価実験では,短時間持続する集合スパイク電位の抑制は観察されるが,長期持続する抑圧はいずれの刺激条件でも起こらないなどの知見が得られた.以上の結果より,霊長類の海馬体は,げっ歯類よりもLTPやLTDが誘導されにくいことが示唆された.
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