Research Project
Grant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areas
本研究の目的は、マウス精子幹細胞に発現する細胞膜タンパク・分泌タンパクを見つけ、それらの精子幹細胞における機能を解析して幹細胞維持・分化に関わる分子を同定することにある。精子幹細胞の遺伝子解析は、細胞数が非常に少ない(マウスの場合、精巣の細胞1万個に2個程度)ため、これまで非常に困難であったが、最近精子幹細胞(Germline Stem cells、またはGS細胞)の長期培養技術が確立されたために、GS細胞のmRNAを用いた解析が可能になった。SST-REX法(レトロウイルスライブラリーとBa/F3細胞を用いたシグナルシークエンス・トラップ法)によって得られたクローンはGSに特異性が高くなかったので、改めてGeneChipによるマイクロアレイを用いてGSに高発現してW/Wvマウスの精巣には発現しない遺伝子のうち膜タンパク・分泌蛋白を選び出した。このうち上位10種類についてin situ hybridizationを行ったところ、精細管の最外周(精原細胞)が特異的に染まるもの、真ん中あたりが特異的に染まるもの、最内周(減数分裂後の精子細胞)が特異的に染まるものがあった。精子の分化では精細管の最外周から内側に向かって分化が進むことが知られており、これらの遺伝子は分化段階特異的なマーカーといえる。特にこれらは膜タンパクであり、抗体による識別やソーティングに有用であると考えられた。いろいろな分化段階のマーカー遺伝子がGS細胞のmRNAで発現していることに関しては、培養中のGS細胞のpopulationの中には幹細胞だけでなくいろいろな分化段階の細胞があるものと考えられた。しかしGS細胞の培養において減数分裂まで進むことはないため、最も分化が進んだ精細管最内周に発現する遺伝子については、GS細胞でなぜ発現していたのかは不明である。また、精細管外周のごく一部の細胞だけがin situ hybridizationで染まる遺伝子もあり、これについては精原細胞のなかでも最も未分化な精子幹細胞である可能性が高い。