Research Abstract |
開口放出は,神経伝達物質や顆粒の放出,受容体の細胞表面への呈示に関わる重要な生命現象であり,積荷を載せた小胞が,細胞膜と融合することにより起きる.小胞と細胞膜との融合は,繋留因子と呼ばれるタンパク質複合体が,小胞膜と標的膜とを繋留した後,小胞膜上のSNAREと標的膜上の別のSNAREが複合体を形成し,小胞膜と標的膜が互いに引き寄せられることによって生じると考えられている.また,これら一連のタンパク質間相互作用によって行われる膜融合反応は,Rabを初めとする特定の低分子量GTPaseとの相互作用によってGTP依存的に制御されている.低分子量GTPaseは,GTP・GDPの結合により,活性・不活性型の変換を行うが,GTP型からGDP型への変換は,GTPase活性化タンパク質(GAP),そしてGDP型からGTP型への変換は,グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)の助けを借りて行われる.本研究では,膜融合反応に重要な低分子量GTPaseとそのエフェクター,GEF,およびGAPの立体構造をX線結晶構造解析あるいは電子顕微鏡によって決定し,低分子量GTPaseによる膜融合制御機構をタンパク質の立体構造に基づいて理解することを目的とする.今年度は,Ral GTPaseのエフェクターであり,繋留因子として働くExocyst複合体(分子量760kDa)の電子顕微鏡による解析と,Sec4(酵母のRab GTPase)のGEFであるSec2のX線結晶構造解析を行なった.Exocyst複合体は,ブタ脳あるいはラット脳から,精製し,電子顕微鏡をつかって,酢酸ウラニルによる負染色像を観察した.当初は,粒子の均一性に問題があったが,精製条件を改善することにより,Exocyst複合体全体と考えられる約150Åの大きさの粒子を多く観察できるようになった.しかしながら,解離した複合体と考えられる約60Åと120Åの大きさの粒子が依然として残っており,解析の妨げとなっている.粒子の均一性を高めることにより,単粒子解析が可能な試料調製法を確立することが,今後の課題である.また,極低温電子顕微鏡による解析および結晶化に向けて,試料調製のスケールアップも行ないたい.一方,Sec2については,Sec4との相互作用領域の結晶構造を3.0Å分解能で決定した(R_<free>=0.29).Sec2のSec4結合領域は,二量体であり,200Åの長さをもつトロポミオシン様のcoiled coilを形成していた.現在,立体構造にもとづいてin vitroおよびin vivoでの機能解析を進めている.また,得られた立体構造情報を利用して,GEF活性を担う領域全体とSec4との複合体の結晶構造解析を進めて行く.
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