Research Abstract |
アブラナ科植物に特有の辛味成分であるイソチオシアナートは,アミノ酸の共存下においてチオヒダントインに変換される。昨年度は,アリルイソチオシアナート(AITC)を含む加工食品(ワサビ風味の調味浅漬,ワサビのり,ワサビ漬け)中にチオヒダントインが生成することを初めて明らかにした。 チオヒダントインは,ヘテロサイクリックアミン類やニトロ化合物の変異原性を強く抑制することがこれまでの実験で明らかになっている。本年度は,AITCに由来するチオヒダントインを用いて,変異原の代謝活性化酵素のひとつであるシトクロムP450(CYP)1Aに対する影響,直接変異原に対する影響の観点から抗変異原作用機構を検討した。 IQなどのヘテロサイクリックアミン類は,肝臓のCYP 1Aによって代謝活性化され,究極変異原物質であるN-hydroxy-IQに変換される。そこでまず,CYP 1Aに特異的な基質であるEthoxyresorufin (ER)を用いて,CYP 1A活性への影響を検討した。その結果,ATH-Leu, ATH-Val, ATH-Trp, ATH-Phe (AITCとロイシン,バリン,トリプトファン,フェニルアラニンとの反応物)がこの酵素活性を阻害することが確認され,チオヒダントインはCYP 1Aの阻害により変異原の代謝活性化を抑制し,抗変異原性を示すことが明らかになった。また,酵素活性試験では阻害作用を示さなかったATH-Asp, ATH-Glu, ATH-Gly (AITCとアスパラギン酸,グルタミン酸,グリシンとの反応物)は,N-hydroxy-IQの変異原性を抑制することがAmes試験で確認されたことから,直接変異原物質を不活化させて抗変異原性を示す機構も明らかになった。さらに,チオヒダントインは,ニトロ化合物である4-NQOとの直接的な反応によりその変異原性を抑制することも示唆された。 以上の結果から,チオヒダントインは5位の炭素に結合したアミノ酸に由来する構造の違いによって抗変異原作用機構が異なることが示された。チオヒダントインの構造と抗変異原性との関連については,さまざまなチオヒダントインを調製し構造活性相関を検討する必要がある。
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