Research Abstract |
本研究の目的は,東京大都市圏を事例として,就業構造の多様化に伴う在宅勤務の拡大動向を把握し,こうした新しい就業形態が大都市圏の地域構造にどのような影響をもたらすのか,検討することにある. 既存研究および統計資料による分析によると,近年,在宅勤務者は既婚女性を中心に増加する傾向にあり,女性就業率のM字カーブを反映して,結婚・出産・育児後の再就職時に在宅勤務を選択するケースが多い.そこで本研究では,東京大都市圏郊外に居住する既婚女性の在宅勤務者を対象として,インターネットによるアンケート調査を実施した.調査対象者は東京23区以外の1都3県に居住する者とした.なお,調査対象者の住居分布は次の通りである.東京都市部:78名,神奈川県:152名,千葉県:68名,埼玉県:66名,計364名. 彼女らの就業経歴および居住経歴を考察すると,在宅勤務を開始する以前は,都心通勤を行っており,当時の平均通勤時間は概ね60分であった.その後,結婚・出産・育児を経て,フルタイムによる通勤が困難になると,在宅勤務を指向する傾向が高まる.つまり,これらのライフイベントが在宅勤務を指向させる大きな要因となっている.また,在宅勤務の雇用形態は,アルバイトや派遣社員といった非正規雇用が,正規雇用を大きく上回り,なおかつ,年収は100万円未満が多数を占めることから,既婚女性の在宅勤務者は夫の収入を主とする扶養控除内での副次的な就労と位置づけられよう. 人口減少社会への転換を迎え,生産年齢人口の減少が深刻な社会問題になると予測される中,就業意欲の旺盛な既婚女性労働力をいかに労働市場に取り込むのか,喫緊の課題である.本研究では在宅勤務が副次的な就労に終始している点を指摘したが,通勤時間が実質的に皆無となる在宅勤務は,彼女らを労働市場に組み込む上で,きわめて有効な勤務形態であると考えられる.
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