Research Abstract |
自己の記憶能力に対する評価,あるいは自己の記憶に関する知識など,自己の記憶に関する認知は「メタ記憶」と呼ばれる.本研究では,高齢者のメタ記憶に着目し,高齢者は自分の記憶に関して,どのような評価をしており,それがどのような特徴をもっているのかを多角的に明らかにすることを目的とした.調査では,高齢者が自分の記憶をどのように評価して日常生活を過ごしているのかを明らかにするために,65歳から81歳までの高齢者104名(男性41名,女性62名,平均年齢72,15歳,平均教育年数11.96年)に対して質問紙調査を行なった.その結果,30代の若い頃に比べて,自分の記憶力の低下を感じている者が有意に多かった(X2(1)=56.63,P<.01).しかしながら,同い年の他人と比べて,自分の記憶能力が劣っていると感じている者はほとんどいなかった(X2(1)=77.44,P<.01).この結果は,昨年の調査結果と同様であり,高齢者が自己の記憶能力へ抱く複雑な自己効力感を示唆していると指摘できる.つまり,自己の記憶能力において,過去と比較した場合は自己卑下的評価であるが,同じ年の他人と比較した場合に限り,自己高揚的評価が見られるのである.このような過去と比較した場合の自己評価と他人と比較した場合の自己評価の乖離は,記憶のみならず,体力,動作,疲れやすさの評価においても明らかになった.このことから,記憶のみならず,高齢者の自己評価を明らかにする際には,いつ,誰との評価なのかということに留意することが重要であると考えられる.また,過去と比較して記憶の衰退を感じていた者のうち,50代から記憶の衰退を感じていたものが13.6%,60代からが56.9%,70代からが29.5%であった.多くの高齢者が,加齢に伴い記憶の衰えを感じているものの,社会的活動(老人会会長,ダンスなど)を積極的に行なうことによって,その衰退程度が緩和されているとみなしていることが推察された.加えて,高齢者が日常生活で感じる記憶の失敗経験には,「探し物をしていたのに,何を探していたのか分からなくなる」「人の名前が覚えられない」などが顕著であることが示唆された.
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