Research Abstract |
特発性線維硬化性疾患に続発したリンパ腫の発症の病因を解明するために,特発性後腹膜線維症(IRF)の1症例が検索対象に選ばれた.IRF発症時の後腹膜病変,その約4年後に発症したリンパ腫の顎下腺病変,さらにその後4年の経過で再発したリンパ腫の胃病変の計3つを解析した. 後腹膜病変はリンパ腫を示唆する組織学的所見はみられなかったが,病巣内にはリンパ球集団の約17%にbcl-10の核内発現(+)かつCD79a(+)のB細胞を見出した.顎下腺病変は濾胞性リンパ腫であり,この顎下腺病変の染色体分析の結果は,97,XY+X,+del(1)(p22),+del(1)(p10),+der(1)t(1;14)(p22;q10),+der(1)t(1;14)(p22;q10),+der(1)t(1;14)(p22;q10),+der(1)(q24),+2,+2,+3,+del(3)(p21),+5,+5,+5,+6,+6,+7,+7,+7,+add(7)(q33),+8,+add(8)(q24),+9,+10,+10,+del(10)(q24),+11,+11,+11,+11,t(11;14)(q11;q32),+12,+12,+12,+12,+13,+14,+15,+16,+16,+17,+17,+19,+20,+20,+21,+21,+22,+22,+mであった.胃病変はび漫性大細胞性B細胞リンパ腫であった.これら3つの病変で免疫グロブリン重鎖遺伝子再構成のモノクローナリティを認めたが,各病変のクローンの塩基配列はそれぞれ別のものであった. IRFの宿主には発症と同時に免疫血液学的異常性があり,遺伝子レベルではB細胞集団に単一のクローンの拡大が,分子レベルではbcl-10を介するシグナルの活性化が起こっていると考えられ,不安定な分子病態がリンパ腫の発症に重要な意義を与えていると考えられた.
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