Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
A型インフルエンザウイルスは、ウイルス粒子表面に存在する2種類の蛋白質、HAとNAの抗原性の違いにより135種類もの亜型に分けることができる。しかし、これまで実際にヒトの世界で大流行を引き起こしたのはわずか3種類の亜型にすぎない。その理由を検証するのが本研究の目的である。人類は20世紀に4度インフルエンザの世界的大流行を経験した。4度の大流行は全て、15種類あるHAの亜型(H1〜H15)と9種類あるNAの亜型(N1〜N9)の組み合わせの中で、H1N1、H2N2、H3N2の3種類のウイルスによって引き起こされている。これらの事実は、HAとNAの組み合わせがウイルスの生存に大きな影響を及ぼす可能性を示唆している。そこで本研究では、現在もヒトの世界に存在するH1N1とH3N2ウイルスを鋳型として、人工的にH1N2およびH3N1ウイルスを作り出し、野生型H1N1およびH3N2ウイルスと比較して、生物活性が低下するかどうかを明らかにする。平成17年度には、H1N2およびH3N1ウイルスを作り出すことに成功した。そこで本年度は、これら人工ウイルスと野生型H1N1およびH3N2ウイルスの増殖能、レセプター結合能およびレセプター破壊能を解析した。その結果、H3N1ウイルスの増殖能は低く、レセプター結合能は非常に不安定であった。またN2蛋白をもつH1N2およびH3N2ウイルスのレセプター破壊能はN1蛋白をもつH1N1およびH3N1ウイルスよりも高かった。以上の結果から、H3N1ウイルスは生存に不利な組み合わせのHAとNAをもつために増殖能が低く、これまでヒトの世界に一度も出現できなかったと考えられた。また、H1N2ウイルスが一時的にヒトの世界に出現したものの世界的大流行を起こさないまま終息したのは、HAとNAの組み合わせがレセプター結合能と破壊能のバランスを崩していたためであると考えられた。