Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
概日周期は真核生物に広く認められる生命現象であり、生物が地球の昼夜変化に適応する過程で進化した機能と考えられている。この概日周期の発振中枢は約1万個の細胞からなる脳基底部に存在する視交叉上核(SCN)であることが分かっている。そのSCNが司る外部環境に適応する現象(同調による位相変化)を引き起こすものは、光刺激による光同調系と薬物などによる非光同調系に大別される。本研究ではノシセプチン作動薬によるSCNの非光同調位相変化作用機序を分子生物学的・免疫組織学的手法を用いて明らかにすることを目的としている。これまでに私は、この作動薬による位相変化が有意な主要時計遺伝子産物PER2蛋白質が翻訳レベルで減少したことによって惹起されたという結果を得ている。概日周期発振中枢であるSCNは、組織解剖学的に直接視神経入力があり光反応性を持つ領域と、視神経の入力が無く光には反応しないが固有の体内時計を刻み続ける領域に大別できる。そこで組織免疫学的手法で詳細に解析したところ、この作動薬投与は、SCNで固有の体内時計を刻み続ける領域でPER2蛋白質の顕著な減少を引き起こしたことが分かった。この作動薬投与は、直接視神経入力がある領域には影響を及ぼさないことが示唆される結果を得た。この作動薬による非光同調位相変化作用は、SCNの固有の体内時計を刻み続ける領域でPER2蛋白質を翻訳レベルで減少させることにより引き起こされることが示唆された。非光同調系の同調位相変化は、動物種で感受性が異なっていたことがこれまで問題であった。しかし、本研究で用いた作動薬は著しく非光同調位相変化感受性が低いマウスにおいても有意な位相変化を示すことが分かった。薬理学的手法を用いて解析した結果、この作動薬は明らかにin vivoでノシセプチン受容体を介してマウスの位相を前進させたことも明らかになった。