Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
発生初期の鶏胚網膜神経層において、カルシウム動員及び容量性カルシウム流入が、細胞増殖期の神経上皮細胞(特に細胞周期上のS期細胞)で顕著に生じ、分化した細胞(網膜神経節細胞)では痕跡的であること、これらストア作動性カルシウムシグナル系がDNA合成を制御することを既に報告している。さらに昨年度は、チロシンキナーゼ型受容体を活性化する塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が、鶏胚網膜神経上皮細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させないことを明らかにし、チロシンキナーゼ型受容体のシステムは、ストア作動性カルシウムシグナル系を介して細胞増殖に関与するシステムとは異なる機能を担っている可能性を示した。本年度はまず、bFGFによる網膜神経上皮細胞の細胞分化への影響の評価方法を確立した。分化した各種網膜細胞の数・割合に対する効果の評価は、網膜神経層をパパイン処理にて単離し、網膜神経節細胞・アマクリン細胞・双極細胞・杆体視細胞を認識する抗体(各々NR4・HPC-1・115A10・Rho-4D2)による免疫染色を行い、陽性細胞をカウントすることで行った。また網膜神経層の組織構築・細胞形態に対する効果の評価のために、網膜神経層から切片を作成し、HE染色を行った。これらを用い、培養液中にbFGFを添加してその影響を検討したところ、bFGF添加群では網膜神経層の厚みが薄く、またNR4抗体陽性細胞の出現頻度の増加と出現時期の早期化が認められた。以上より、bFGFが網膜神経上皮細胞の増殖に対しては負の、網膜神経節細胞の分化に対しては正の効果を有することが示唆された。他の網膜細胞への影響については検討中であり、またセットアップの完了したリアルタイムPCRシステムを用いて、発生過程におけるbFGF及びFGF受容体の遺伝子発現の変化、さらに各種転写因子の遺伝子発現の変化を検討することが今後の課題である。