Outline of Annual Research Achievements |
軟体動物やサンゴなどの殻体は付加成長によって形成され, その内部には様々なオーダーの成長縞が認められる. これらの成長縞は, 個体発生を通じての硬組織の成長やそれを支配する環境要因を記録したアーカイブスであると見なすことができる. そこで, 本研究では「ホッキガイ」と呼ばれ水産有用種として知られる, バカガイ科の二枚貝の1種のウバガイ(Pseudocardium sachalinense)を対象とし, 北海道沿岸に生息する集団について, 年~日レベルの成長履歴と成長に関与する環境要因を探ることを目的に研究を行った. 本研究では, 漁業関係者の協力を得るなどして, 苫小牧市, 紋別市, 八雲町(噴火湾)をはじめとする採集場所の明確な試料を収集した. 得られた二枚貝試料は, 軟体部を取り除き, 樹脂を用いて貝殻を包埋し, 最大成長軸に沿って切断した. その断面を研磨後, Mutvei's溶液(Schöne et al., 2005)で染織・エッチングし, デジタルマイクロスコープおよび実体顕微鏡を用いて年輪および微細成長縞の観察を行った. さらに, それらの成長縞に沿って貝殻試料の酸素同位体比(科博)を分析した. その結果, 北海道沿岸に生息しているウバガイの年輪は冬の低海水温期に形成された冬輪であることがわかった. また, 冬輪と冬輪の間は, 殻が成長した期間(初夏から秋)の海水温および塩分の季節変動が記録されていた. 今後, 海水試料の酸素同位体比値と併せ, 古水温計としての有効性を検討する. さらに, ウバガイは北海道の考古遺跡からも多く出土することから, 過去1万年間における気候変動復元のツールとなりうる可能性が得られた.
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