抗がん剤を取り扱う医療従事者が長期的に曝露されることにより、健康被害を生じる危険性が指摘されている。2016年度に実施した抗がん剤曝露調査により、調製環境外部へ抗がん剤が搬送されている可能性が示唆された。抗がん剤の院内への飛散状況は把握できておらず、外来化学療法室以外への抗がん剤汚染に関して調査した報告はない。そこで本研究では、調製環境外部への抗がん剤の飛散状況を調査し、対策の有用性を評価することを目的とした。 調製終了後から搬送、投与、廃棄に至るまでの過程における抗がん剤の飛散状況を調査した。抗がん剤は5-FUを対象とし、サンプルは指定の溶媒を用いて拭き取り法にて回収した。測定は外部機関に委託してLC-MS/MSを用いて行った。 注射トレー17枚、病棟の点滴調製台および注射カート28台を拭き取り調査した。外来化学療法室のトレーにおいて多量の5-FUが検出された。多量の水で洗浄することで大半の5-FUを除去できることが確認されたが、完全に除去することはできなかった。病棟において、調製台やトレー、注射カートから 5-FUが検出された。病棟の調製台から検出された5-FUは、抗がん剤調製室安全キャビネット内部と比較して約15倍であった。抗がん剤不活化ワイプを用いた清掃により5-FUの検出量は大幅に低下したが、1ヶ月間で多量の5-FUが蓄積することが確認された。 本研究結果より、病棟へ抗がん剤汚染が拡大していることが確認された。また、カートやトレーを介して院内全体へ汚染が拡大していることが示唆された。本研究結果は、抗がん剤曝露対策を病棟などの調製環境外部においても徹底すべきであることを示した。対策として、使い捨てポリ袋の使用や多量の水による洗浄、不活化剤の使用の有用性が示唆されたが、いずれにおいても汚染を完全に除去することはできなかった。汚染拡大防止のためには、定期的な清掃を行うとともに、閉鎖式器具の使用や施設全体への周知及び教育が重要であると考えられた。
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