Outline of Annual Research Achievements |
昨年度では,膜蛋白質の安定性を記述するための必要最低限の物理因子について考察した。リン脂質分子の非極性鎖を構成する炭化水素基集団が膜タンパク質の「溶媒」として機能し,そのエントロピー効果が膜蛋白質の構造安定性に重要な役割を果たすであろうと提言し,膜蛋白質用の自由エネルギー関数を開発した。それを用いて,耐熱化を実現できるアミノ酸置換を予測する方法論を構築し,創薬の標的として特に重要なG蛋白質共役型受容体に対して,その構造が分かっている場合(Case 1)では,その安定化置換の予測的中率は6/7であった。 本年度では、GPCRファミリーの約8割を占めるClass Aの不活性型に対し,鍵残基とホットスポットの存在を発見した。鍵残基とは,「それを置換して得られる変異体の多くが大きく耐熱化する」残基であり,各GPCRに複数個存在する。数多くのGPCRに保存され共通に鍵残基となる残基がホットスポットである。BW数が3.39である残基がホットスポットであることを示した。特に,それをアルギニンまたはリジンに置換することによって顕著な安定化が実現できることを予測し,実際にプロスタグランジンE2タイプ4受容体とアセチルコリンM2受容体の耐熱化に成功し,それらの新しい構造決定に結び付けた。野生型と置換体の構造の両方が分かっている場合には,どちらがより安定であるかを射当てることに失敗しないと考えられる。つまり,開発した自由エネルギー関数Fは安定性の構造依存性を的確に考慮できている。しかし,裏を返せば,構造が不正確なら成功する確率が低くなりうることを示唆している。相同性が34%に達する鋳型がある場合は,安定化置換の的中率は5/7であり,あまり落ちなかったが,17%の鋳型しか見つからなかった場合では2/10にまで落ちた。今後,特に野生型の構造のモデル化法を改良することが不可欠である。
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