Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
強力な抗腫瘍活性を有するマクロライドAmphidinolide Nの合成研究において、提唱構造の立体化学の妥当性を実証するため、各フラグメントの立体異性体を合成し、報告された1H、13CNMRスペクトルデータとの比較を行うこととした。初めに、それぞれの立体異性体の選択的な作り分けが可能となるよう、所属研究室で開発されたプロリン型有機触媒を用いた不斉アルドール反応を用いることとした。本手法は、遷移金属触媒と異なり、有機触媒の値段も安く、また空気や水に安定であるため取り扱いが容易であり大量合成に適していること、また所属研究室で長年研究された知見が活かされるという利点がある。具体的には、βアルコキシアルデヒドとエチルグリオキシレートとの不斉アルドール反応により、連続する不斉点を高い光学純度で構築し、エポキシユニットの大量合成法を確立した。同様にプロパナールとエチルグリオキシレートとの不斉アルドール反応により、ジチアンユニットの大量合成にも成功した。一方、テトラヒドロフランユニットは、本手法での構築は困難であったものの、Shi不斉エポキシ化と続く変換反応により、グラムスケールでの合成を達成した。合成した各フラグメントの1H、13CNMRスペクトルデータとの比較を行い、提唱構造の立体化学の一部は正しくない可能性が高いという知見が得られた。最も正しい立体化学だと思われる各ユニットカップリング反応により連結、マクロラクトン化反応に付すことで、すべての炭素骨格を有するマクロラクトンが得られた。全合成達成には、保護基の除去と不安定なエキソオレフィン部位の変換が残されている。しかしながら、本化合物の不安定性から保護基を化合物の分解なしに除去することは困難であった。本点が全合成達成における最大の障害であり、更なる条件検討、もしくは適切な保護基の選択が必要である。