Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
SDラットの十二指腸、頸動脈、門脈に細径カテーテルを留置し、エマルジョン化したトリパルミテートを十二指腸カテーテルから3時間持続注入した。注入前の遊離脂肪酸濃度は動脈血に比べて門脈血の濃度が高かったが、持続注入するに従って、動脈と門脈の遊離脂肪酸濃度は共に経時的に上昇したが、濃度差は解消され、注入60分以降では動脈と門脈の脂肪酸濃度はほとんど等しくなった。この現象はトリパルミテートがカイロミクロンとしてリンパから血中に流入し、脂肪酸のfluxが定常状態になったためと考えられた。次に、リポタンパク中のトリグリセリドのinhibitorであるTriton WR-1339を静注後に同様の実験を行ったところ、トリパルミテート注入前から注入終了時点まで動脈、門脈の遊離脂肪酸濃度は常に高値であったが、濃度はほとんどみられなかった。この現象は、リポタンパク中のトリグリセリドが分解されないため、常に脂肪酸のfluxが定常状態にあるためと考えられた。今回の実験により、Triton WR-1339を使用した頸動脈、門脈カニュレーションモデルは脂質注入前から門脈と動脈の脂肪酸濃度差が消失した定常状態を担保することができる実験系であることが証明された。食餌性脂肪酸は腸管から門脈へ遊離脂肪酸として吸収されるため、この実験モデルを使用すれば、頸動脈と門脈の遊離脂肪酸濃度を評価することで容易に門脈への吸収を評価できる。非アルコール性脂肪性肝炎の病態において重要と考えられている腸管の門脈脂肪酸吸収はこれまでアイソトープを使用した実験系に頼らざるを得なかった。本研究は、アイソトープを使用しない、安全かつ簡便な腸管の門脈脂肪酸吸収実験モデルを作成できた点において意義深いと考える。