Research Project
Grant-in-Aid for Exploratory Research
本年度の研究目標の中心は、生理人類学の視点からネアンデルタールの環境適応能を検討し得る資料の収集方針を検討することにある。前頭縫合を初めとする頭骨各縫合の閉鎖年齢や不良咬合の発生率、四肢骨化石の関節面や起始と付着の特徴、長骨や骨盤の形状、等々など、低カルシウム血症の進行程度や骨格筋の特徴の推定に直結するものについては、関連する諸論文の資料をもとに、本研究の資料を相当程度収集することが可能なようである。ただし、資料収集をどの範囲にすべきかが本研究の成否に関わる問題であると考えられる。近年の化石人類の分類にでは、I.Tattersallの基準の影響が強く、ネアンデルタールを約20万年前から3万年前の旧世界北西部に住んでいたグループを指すのが一般のようである。かつて早期ネアンデルタールやアジア・アフリカのネアンデルタールと分類されていた化石人類群は含まれず、ホモ・サピエンスとは別種のホモ・ネアンデルターレンシスに分類されている。Tattersallは、ネアンデルタールという概念は直感力に裏打ちされた特有の存在で、厳密な科学的分析で定義できるものではないことを強調している。ネアンデルタール渓谷出土の原標本から抽出されたmtDNAの短い断片の379塩基配列から、ネアンデルタールとサピエンスのDNA配列は約69万〜50万年前に分岐したと算出された。これは、両者が異なる種であることを強く示唆するものだという。細胞核のDNA断片の解析結果が昨年発表され、サピエンスとネアンデルタールの分岐は37万年前とされた。いずれにせよ、しかし、分岐と種との間に明確な関係を認めないのは、生理人類学に限るものではなかろう。生理人類学は生理的多型現象に注目している。従来、この視点からのネアンデルタール研究は全く行われていない。それを可能にする資料を検討しつつある。