Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
超イオン伝導体と呼ばれる構造中に可動イオンを有する物質について,電気伝導性を担う可動イオンおよび固体としてのフレームを形成する不動イオンそれぞれの熱振動の相関と電気伝導性との関わりを明らかにすることを目的として研究を行った。プロトンを伝導する固体物質中に溶け込んだ水素イオンが結晶構造のどのような位置にあるかを知ることは伝導パスなどのメカニズムを明らかにする上で重要である。ペロブスカイト型プロトン伝導体であるBa_3Ca_<1.8>Nb_<1.82>O_<8.73>について中性子回折実験を行い、その回折パターンから欠陥構造の解析を行った。温度依存性および重水素による同位体効果を利用して、熱振動によるパターンの変化などから水素イオンが占める格子間位置について詳細な知見を得ることができた。一方、イオン欠損型の欠陥構造を持つセリウム酸化物型イオン伝導体では、酸化物イオン空孔の結晶内での分布の様相がイオン伝導特性に影響すると考えられている。欠陥を有さないセリウム酸化物の第一原理格子力学計算により、室温以下で励起される金属イオンの熱運動が局所構造と密接に関係していることを明らかにした。特に蛍石型という高対称構造により、フォノン状態密度の低振動数域における金属イオンの熱運動に起因するvan Hove特異点の寄与が非常に大きいことがわかった。分子動力学計算により種々のランタノイドドープセリウム酸化物のフォノン状態について検討を行った結果、イオン伝導度と同様に状態密度も系統的な組成依存が見られることがわかった。空孔による局所構造の変化が金属イオン熱運動に影響を与えていると考えられる。フォノン状態密度のもっとも簡便な測定手法である低温熱容量測定の結果には、特異な熱容量の振る舞いが観測された。今後より多くの熱容量データを蓄積・解析することにより、セリウム酸化物型イオン伝導体の欠陥構造を明らかにできると期待される。