Outline of Annual Research Achievements |
1. 研究目的 薬毒物中毒事案の発生時には, 原因究明や犯罪捜査のため, 中毒者の体液や遺留された飲料といった各種水溶液試料について分析が行われる. しかし, 分析対象がイオン性薬毒物である場合, 高親水性であるため抽出が容易ではなく, 煩雑な前処理が必要となる. 以前我々は, 2価カチオンの薬毒物であるパラコートを水溶液試料から高効率で抽出可能なイオン液体(IL)を見いだすとともに, 当該ILを応用した水溶液試料中パラコート・ジクワットの迅速・簡便・高感度な分析法を開発した. 本研究では, 同様の手法をパラコート以外の様々なカチオン薬毒物に応用するための検討を行った. 2. 研究方法 カチオン薬毒物は, 筋弛緩薬6種類(ロクロニウム・ベクロニウム・スキサメトニウム等)およびコリン作動薬2種類(ネオスチグミン・ピリドスチグミン)を対象とした. ILは, カチオン高抽出能かつHPLCで対象薬毒物と分離可能と予想された2-エチルピリジニウム・ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)アミド([EPyH][NNf_2])を用いた. 対象薬毒物を添加した水またはヒト尿に, [EPyH]^+と[NNf_2]^-の各水溶性塩の水溶液を順次添加してin situ IL生成によるマイクロ抽出を行い, 遠心分離後の上清を除去して得たIL残渣またはそのメタノール溶液を分析試料とした. 分析は, 親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)(MS検出またはCAD検出)により行った. 3. 研究結果 筋弛緩薬の分析では, 水中および尿中の各成分を[EPyH][NNf_2]により迅速・簡便に高回収率で抽出して, HILICで良好に分離検出することができた. 一方のコリン作動薬の分析では, IL抽出は可能であったが, HILIC分析の際にILの影響によるピーク形状の悪化や感度低下が見られた, 今後は, 本問題点の改善を試みると共に, 対象薬毒物のさらなる拡充と一斉分析法の構築を図る.
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